「今度、うちでお茶会を開こうと思ってるの。」
エリスが妊娠を知り、重い足取りで帰宅したその夜、夕食の席でデザートの苺のタルトに舌鼓を打ちながら母親がそう切り出してエリス達の反応を見た。
「いいんじゃないかしら?お姉様にも何か気晴らしが必要だわ。」
母親の言葉にそう答えたのは、エリィナだった。
「じゃぁ招待状を書かないとね。エリス、手伝ってくれる?」
「ええ。」
全く食欲がなく、デザートをほとんど残したまま、エリスはダイニングを出て母親の部屋へと向かった。
「ねぇエリス、あなた顔色も悪いし、痩せたんじゃない?」
「少し気分が悪くて・・。」
エリスはそう言いながら羽根ペンを握り、招待状を書き始めた。
妊娠のことを、この人には知られてはいけない。
もしおなかの子が自分と同じような化け物だったのなら、自分の時と同じようにこの人はこの子も捨てるだろうと、エリスはそう思っていた。
「もしかして、妊娠したの?」
母親の言葉に、エリスの羽根ペンを動かす手が止まった。
「そんなこと、ない。」
「誰の子なの?」
母親はそう言うと、エリスに詰め寄った。
「わからない・・」
「産むつもりなの?」
「今わたしが産んだら、あなたが困るでしょう?だからこの子は」
堕ろす、とエリスが言おうとした時、下腹に突如激痛が走り、彼は痛みの余り蹲った。
「誰か、お医者様を!」
(ごめんなさい・・)
薄れゆく意識の中、エリスはおなかの子に何度も何度も謝った。
「気がつかれましたか?」
医師の声でエリスが目を覚ますと、そこは自分のベッドの上だった。
「あの、赤ちゃんは・・」
「大丈夫ですよ。切迫流産はなんとか免れました。」
「少しお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、いいですよ。」
医師はそう言ってエリスを見た。
「産まれた赤ちゃんを養子に出したいんですが。」
「本気なのですか?」
「はい。」
(ごめんね、あなたのことは殺さないけど、わたしが育ててあげることはできない。)
数日後、シンはある貴族のお茶会に招かれ、そこでエリスと再会した。
「お久しぶりね、元気だった?」
「はい。」
シンは途中でお茶会を抜け出すと、エリスを連れて薔薇園へと向かった。
「わたくし、妊娠したの。でもまだ産もうかどうか迷っているの。父親はわたくしの憎い仇だから。」
にほんブログ村