「あ、セシャンさん。」
マリの事件から数日後、ソラが厨房でスープの味見をしていると、セシャンが厨房に入ってきた。
「ソラ、この家には慣れてきたか?」
「はい。でもエリスさんが元気なくて、おいら心配で。」
エリスはマリの事件から、部屋に籠り塞ぎ込んでしまった。
マリはあの後一命を取り留めたが、意識はまだ回復していない。
「ソラ、すまないな。」
「いいんです、おいらここで世話になってるし。」
ソラはそう言ってセシャンに頭を下げると、スープを盆に載せて厨房から出て行った。
「エリスさん、入ってもいいですか?」
「どうぞ。」
ソラが部屋に入ると、ベッドには痩せ細ったエリスが寝ていた。
「スープを作りました。」
「ありがとう。」
エリスはゆっくりと起き上がりながら、そう言ってソラに微笑んだ。
「初めて作ったんですがお気に召すかどうかわかりませんが、食べて下さい。」
エリスはスープを一口食べた。
「美味しいわ。わざわざありがとう。」
「いえ、おいらに出来るのはこんな事だけなんで。」
ソラはそう言うと照れ臭そうに笑った。
「早く元気になって下さいね。」
「わかったわ。」
ソラはエリスの部屋を出ると、ミレィナの部屋へと向かった。
「ソラ、遊ぼう。」
母親譲りの銀髪をなびかせながら、ミレィナはソラに駆け寄った。
「ソラ、お姉ちゃん元気になるかなぁ?」
「大丈夫だよ、元気になるよ。」
マリの子犬と遊びながら、ソラはそう言ってミレィナに微笑んだ。
「じゃぁ、また遊びに来るね。」
ソラはそう言ってミレィナの部屋から出て行った。
マリの子犬と共に廊下を歩いていると、ソラは不吉な影を感じ、窓の外を見た。
邸宅の前に広がる道路に、1人の男が黒い頭巾越しにソラの方を見ていた。
ソラはさっと男から目を逸らし、セシャンの元へと駆けて行った。
「どうした?」
「変な奴が居て、外からこっちを覗いてた。」
セシャンはちらりと窓の外を見たが、妖しい人影はそこにはなかった。
「誰も居ないぞ。」
「おいらの勘違いかなぁ。」
ソラは首を傾げながら、セシャンと共に廊下を歩いていった。
「やれやれ、子どもは勘が鋭くて困るね。」
黒い頭巾を被った男は、そう言って溜息を吐いた。
その瞳は、禍々しく黄金色に輝いていた。
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