エリスは今日も、マリを見舞う為に病院へと向かった。
「マリ、お母さんよ。」
エリスはベッドで眠るマリの手を、そっと握った。
「みんなあなたが元気になるのを待っているのよ。だから早く目を覚まして。」
エリスはそう言って娘の額にキスをすると、病院を後にした。
その夜、エリスは夫・セシャンと共に宮廷舞踏会に出席した。
―エリス様よ。
―マリ様が変な女に襲われたんですって。
―まぁ、それはお気の毒に・・
詮索好きな貴婦人達が、エリスの姿を見ながらそう扇子の陰で囁きを交わしていた。
「エリス、大丈夫?」
ユリノーシンはそう言ってエリスの肩をそっと叩いた。
「ええ。マリはまだ目を覚ましてくれませんけど。」
そう言ってエリスは俯いた。
「犯人はわかっているの?」
「ベリンダです。俺のことを相当恨んでいる彼女の仕業に違いないんです。」
セシャンは怒気を孕みながらそう言い捨てると、露台(バルコニー)に佇んでいるベリンダを見つけ、彼女の方へと歩いていった。
「一体どういうつもりだ!」
セシャンはベリンダの頬を打ち彼女にそう怒鳴った後、彼女の両肩を掴んで激しく揺さ振った。
「何のことだか一体わたくしにはわからないわ・・」
「とぼけるな! お前がマリを撃ったんだ! 2度と俺の前に現れるな!」
啜り泣くベリンダを露台に残し、セシャンはエリスの手を掴んで大広間から出て行った。
舞踏会から数日後、エリスは親しい友人達とパイを焼き、晩秋の風景を楽しみながら、中庭でお茶会をしていた。
「ねぇエリスさん、ベリンダさんのことは聞いていて? あの人、セシャンさんに振られた頃から精神がおかしくなり始めたんですって。」
エリスの友人であるロクシィがそう言って紅茶を一口飲んだ。
「余程セシャン様のことを愛してらしたのね。遺書にもセシャン様のことばかり書かれていたもの。」
「遺書?」
「エリスさん、まだご存知ないの? 舞踏会の夜、ベリンダさんは自分の部屋で毒を飲んで死んでいたそうよ。」
ロクシィがそう言って今日の朝刊をエリスに見せた。
その一面記事には、『深窓の令嬢、謎の自殺』という見出しの下に、ベリンダの顔写真と彼女の遺書が載っていた。
「そんな、嘘でしょう?」
余りにも突然の出来事に、エリスはただただ愕然としていた。
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