「ただいま。」
「エリス、おかえり。」
王宮から戻ってきたエリスを、セシャンがそう言って優しく出迎えた。
「セシャン、その傷は何だ?」
エリスは夫の頬に引っ掻き傷があるのを見つけ、あの噂のことを思い出した。
「エリス、ユリノ様から聞いていると思うが、あの噂は真実じゃない。」
そう言ってセシャンは深い溜息を吐いた。
「一昨日、ソラの母親に通りで会った。」
「リーシャさんに?」
「ああ。厚化粧をして露出度が高い服を着て、客引きをしていた。余りにもしつこく絡んできたんで鞭をくれてやったら、このザマだ。」
「そんなことがあったなんて、知らなかった。」
「俺がお前を捨てて浮気するとでも思ったのか?」
セシャンはエリスを抱き締めると、そう言って彼の頬にキスした。
「少し誤解してた。でも今はお前が浮気してないと知って安心した。」
エリスはそう言って夫の頬にキスした。
「皇帝陛下在位50周年記念パーティーをお前に任せると、確かにユリノ様はそうおっしゃったのか?」
その夜、エリスがパーティーのことをセシャンに話すと、彼は目を丸くした。
「ああ、確かにユリノ様はわたしにそうおっしゃったが、招待状や料理の手配などをして欲しいそうだ。それにユリノ様は、“燃え尽きそうだ”と、一言おっしゃっておられた。」
「最近アレク様とは余り仲がよろしくないことは知っているが、ユリノ様は極限まで思い詰めておられるのか・・皇族というものは、大変だな。夫婦仲が良くても悪くても、口がさない連中に噂されるのだから。」
「そうだな・・」
結婚して7年経っても新婚時代のように仲睦まじい自分達とは違い、ユリノ達にはどうやら冷たい隙間風が吹いているのだろうと、エリスは夜空を眺めながら思った。
「また今夜も、遅いお帰りですのね。」
宮殿では、ユリノことシンが街で深夜まで飲み歩いていたアレクにそう言って彼を冷ややかに迎えた。
「少しバーで話しこんでしまってね。ユリノ、お祖父様のことをどう思っている?」
「陛下のことは尊敬しておりますわ。リン様を処刑したという事以外は。」
「そうか。僕はお祖父様のやり方は古いと思っているんだ。父上だってそうだ。今ここには年寄ではなく、若い力が必要なんだよ。」
「あなた、もしかしてお祖父様に反旗を翻すおつもりですの?」
「そんな事はしないし、する必要もない。片方が欠けたら意味がなくなるからね。」
「あなた・・」
シンは、アレクが街に毎晩出かけている理由が、やっとわかった気がした。
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