「おはよう、エリス。早速パーティーの準備をしましょうか?」
「ええ。」
翌日、シンとともにエリスはパーティーに出す料理の手配をした。
「この料理で大丈夫でしょうか?」
エリスはそう言って、パーティーに出す料理の一覧表をシンに見せた。
「問題ないわ。陛下は、好き嫌いというものが全くないから。それよりもお義父様の方が偏食家だから、困ってしまうわ。」
シンは溜息を吐いた。
「パーティーには、社交界や経済界の重鎮達がご出席されますよね? その方達の料理はいかが致しましょう?」
「ひとり、厄介な方がいるわ。昨日会ったナディーヌっていうこの父親よ。」
「あの子の、父親?」
ナディーヌの、自分を不快そうに見つめる蒼い瞳が、エリスの脳裡に浮かんだ。
「ええ、フィステル男爵よ。陛下の懐刀で、宮廷内で最も幅を利かせている方よ。」
「だからあの子、随分と偉そうな態度を取っていたんですね。」
エリスは怒りで一覧表をぐっと握り潰しそうになった。
「親が偉いからって、自分も偉いと錯覚してしまっているんでしょうね。まぁ、相手にしない方がいいわ。」
「そうですね。」
シンの部屋を出たエリスが廊下を歩いていると、向こうからあの生意気娘がやって来るのが見えたが、彼はナディーヌを無視して彼女の傍を通り過ぎた。
「エリス、ここにいたのか。」
ふとエリスが顔を上げると、そこには軍服姿の夫が立っていた。
「セシャン、珍しいな。私服姿でいつも出仕するお前が軍服姿で出仕するなんて。」
「ああ、ちょっとな。」
エリスがちらりとナディーヌの方を見ると、彼女はちらちらと自分達を見ていた。
「パーティーの準備は進んでいるか?」
「まぁ、なんとか。」
「じゃぁ、また後でな。」
セシャンはエリスの頬にキスすると、向こうへと歩いていった。
「あの方、エリス様の旦那様ですの?」
いつの間にか、ナディーヌがエリスの隣に立っていた。
「ええ、そうだけど。それがあなたに何か関係ありますの?」
エリスはじろりとナディーヌを睨んだ。
「い、いいえ。少し知りたかったので・・」
ナディーヌはそう言うと、そそくさとエリスの元から走り去っていった。
一方、セシャンは上司のイルディアと共に閣議室へと入ると、そこには皇帝シェーラと小太りの体を軍服に包んだナディーヌの父親―フィステル男爵が椅子に座り、あくびをしていた。
「失礼致します、陛下。」
「イルディア、わざわざ呼びだしてすまぬな。実は、そなたに話したいことがあるのだ。」
シェーラはそう言うと、険しい表情を浮かべた。
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