リスエル工場が閉鎖されてから数日が経った。
「エリスさん、ちょっとお話があるんだけれど、いいかしら?」
エリスが刺繍をしていると、姑が急に話しかけてきた。
「なんでしょう、お義母様?」
「あなた、また余計なことをしてくれたわね。」
姑はそう言うと、1枚の封筒をエリスの前に置いた。
「これは?」
「あの工場で働いていた人達があなたに書いたものよ。」
エリスは封筒の封を切った。
中から便箋が何百枚も出てきた。
エリスはその中の1枚に目を通した。
“死ね! お前達の所為で俺達の生活は滅茶苦茶だ!”
震える手で便箋を机の上に載せると、姑はエリスに勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「あなたはあの人達の為だといって工場を閉鎖させたけど、あんな工場でもあの人達にとっては職場だったのよ。」
姑が自分に何を言いたいのか、エリスにはよくわかっていた。
「あなたの善意は、あの人達にとって何の役にも立たなかったのよ。」
その夜、エリスは溜息を吐きながら、浴室へと入った。
シャワーを浴びながら、姑の言葉を思い出していた。
“あなたの善意は、あの人達にとって何の役にも立たなかったのよ。”
(わたしがしてきた事は無駄だったのか。)
エリスはあの工場さえなくなればこの町が平和になると信じていた。
だが町の人々からしてみれば、日々の糧を得る為に働いていたのに、気まぐれな貴婦人によって失業したという事実は、彼らにとって屈辱以外の何物でもないだろう。
(これからどうすればいいんだろう?)
そんな事を思いながらエリスが身体を洗っていると、背後から視線を感じた。
(気の所為か。)
浴室の外では、1人の男がエリスの裸体を覗き見ながら自慰に耽っていた。
あの女をいつか自分のものにしたいー彼はそんな野望を抱きながら、果てた。
浴室の方を見ると、もうそこにはエリスの姿はなかった。
翌日、エリスが買い物をしていると、突然頬に激痛が走り、彼女は地面に蹲った。
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