「セトナ、どうして・・」
シンがゆっくりと立ち上がり、娘に近づこうとすると、セトナは恐怖に悲鳴をあげた。
「いや、来ないで!」
「セトナ、お母様よ。」
シンはセトナを宥めようとしたが、彼女はますます怯え、シンから一歩後ずさった。
「来ないで!」
「どうして、セトナ? どうしてお母様から逃げるの?」
娘に拒絶され、シンは深く傷ついた。
「そなたの娘は、そなたの姿に怯えておるのだ。」
「俺の姿に?」
シンは信じられないといった表情を浮かべながら、コウを見た。
「ああ。」
コウはそう言うと、シンの肩をそっと叩いた。
彼は手鏡を彼に見せた・
そこに映っていたのは、全身返り血に染まった自分の姿だった。
「そんな・・嘘・・」
「セトナよ、我の元に来い。」
コウは、そう言ってセトナに手招きした。
「あなた、だぁれ?」
「我はそなたの味方だ。こわがることはない。おいで。」
コウはセトナに微笑みながら、腰を屈めると両手を開いた。
「お母様?」
「大丈夫、彼は味方よ。」
母の言葉に、セトナは迷いなくコウの胸へと飛び込んだ。
「ここは危ない、離れた方がよかろう。」
「でもまだ夫が居るんだ。彼を置いて行く訳には・・」
「そなたの家族は無事だ。それが判ったらもう満足か?」
コウはそう言ってシンを見た。
「そう。じゃぁ早くここから・・」
シンはゆっくりと歩き始めた時、背後から邪悪な気配を感じた。
「どうした?」
「ううん、何でもない。」
シンが再び歩き始めた時、誰かが彼の腕を掴んだ。
「何処に行くの、ユリノ?」
ゆっくりとシンが振り向くと、そこにはアレクが立っていた。
「アレク、今まで何処に・・」
「行かせないよ、ユリノ。」
アレクはそう言ってシンに微笑んだが、その笑みはどこか恐ろしいものだった、
「離して・・」
「嫌だ、行かせないよ。」
アレクはシンの腕に爪を食い込ませた。
シンはアレクを突き飛ばした。
その拍子に、彼の掌に不気味な焼き印が捺されているのをシンは見た。
「あれは、“魔の力”・・」
コウはそう言って、溜息を吐いた。
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