「ルドルフ、どうした?」
ヨハンはルドルフの様子がおかしいことに気づき、彼の肩を揺すった。
「ミンナ、殺サナイト・・」
ルドルフは熱に浮かされたようにぶつぶつとそう呟くと、寝室から飛び出していった。
「ルドルフ、待て!」
ヨハンは嫌な予感がして、彼の後を慌てて追った。
「ルドルフ様、一体どうし・・」
ルドルフが廊下を歩いていると、皇帝の侍従が彼に声を掛けた。
ルドルフは護身用の拳銃を取り出すと、躊躇いなく引き金を引いた。
(今のは、銃声・・?)
アウグスティーナで仕事をしていたユリウスは、遠くで聞こえた銃声に身を震わせた。
銃声がした方向はスイス宮―ルドルフの部屋がある近くだ。
(ルドルフ様に何かが・・)
ユリウスは仕事を放り出し、スイス宮へと向かった。
「スイス宮から黒煙が!」
「火事だ!」
侍従達の怒号や女官達の悲鳴が聞こえ、ユリウスは法衣の裾を捲り上げながらスイス宮へと向かう足を速めた。
だが、スイス宮にあるミヒャエル門は堅く閉ざされ、中の様子が判らなかった。
「お願いです、通して下さい!」
「いけません、中は危険です!」
「ルドルフ様は・・皇太子様はご無事なのですか?」
「それは・・」
衛兵がユリウスの剣幕に押されていると、中から再び銃声が聞こえた。
「失礼します!」
「待って下さい!」
衛兵を振りきり、ミヒャエル門の中へと入ったユリウスは、そこで信じられない光景を見た。
地面は血で緋に染まり、芝生の上には兵士達や女官達の死体が転がっていた。
(一体、ここで何が・・?)
「う・・うぅ・・」
ユリウスが吐き気を堪えながら先へと進もうとすると、瀕死の重傷を負った年嵩の女官に足首を掴まれ、彼は転倒しそうになったが何とか持ちこたえた。
「ここで一体何があったのです? 皇太子様はどこに?」
「悪魔・・あいつは・・悪魔だ・・突然、みんなを・・」
「ルドルフ様が、一体あなた方に何を・・」
「あいつは・・悪魔・・ぎゃぁぁ!」
突然女官が恐怖に顔を歪ませたかと思うと、彼女の首が何者かによってサーベルで薙ぎ払われ、それは勢いよく地面を飛んで壁にぶつかった。
「ユリウス、ここに居たのか。」
「ルドルフ様・・」
ユリウスがゆっくりと顔を上げると、そこには血に塗れたサーベルを握り締めたルドルフが立っていた。
「一体何が起きているのです? どうしてあなたはあの人を殺したのです?」
「ユリウス、来てくれると思った。」
ルドルフはそう言うなり、ユリウスを抱き締めた。
「ルドルフ様?」
「ユリウス、ひとつお願いがあるんだ。聞いてくれるか?」
「お願い、ですか?」
この時ユリウスは、ルドルフの様子がおかしいことに気づいた。
「わたしと一緒に、死んでくれないか?」
ルドルフはそう言うと、サーベルの切っ先をユリウスの喉元に突き付けた。
「ルドルフ様・・何を・・」
「本当は自殺して欲しかったんだが、お前はしないだろうから・・わたしがお前を殺して、わたしもすぐに後を追うから。」
そう言って笑ったルドルフの瞳は、禍々しい光を放っていた。
ユリウスはその時、突如豹変したクララも同じ瞳の色をしていたことを思い出した。
「絶対に離さないから。永遠にお前はわたしのもの・・」
ルドルフはユリウスの向う脛を蹴飛ばし、地面に押し倒すと、彼の法衣を脱がせた。
「足を開いて、ユリウス。」
(違う、ここに居るのは・・目の前に居るのは、ルドルフ様じゃない。)
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