「痛いだろ、止めろ!」
少年達に容赦なく背中をゴシゴシと擦られ、ルドルフは思わず悲鳴を上げたが、彼らは無視した。
全身に溜まっていた垢が少年達によって容赦なく落とされた後、ルドルフは覚束ない足取りで風呂場から出た。
『次はこちらへ。』
先ほどの少女が現れ、ルドルフを違う部屋へと案内した。
そこには、色とりどりの鮮やかな振袖が衣紋掛けに掛けられ、簪などの髪飾りが乱れ箱の中に置かれていた。
部屋には少年の他に、数人の女達が控えていた。
「何だ、これは? 女物しかないじゃないか!」
『あなたには、黒や寒色が似合いますね。』
少年は衣紋掛けから薄紫の古典柄の振袖をそっとルドルフの肩に掛けた。
『帯は淡い色が良いかもしれませんね。』
『髪飾りは髪の色が映えるようなものに・・』
女達の手によってルドルフは振袖を着つけられ、真珠の簪を髪に無理矢理挿され、仏頂面になりながら衣装部屋から出た。
『どうぞ、こちらです。』
少女とともに廊下を歩くと、ざわりと男達がルドルフの姿を見て騒ぎ始めた。
『あれは・・』
『美しい・・まるで天女のようだ。』
『沙良も美しいが・・あちらは違った種類の美しさだな。』
(一体なんなんだ!?)
ユリウスを救う為に村長の元へと行くのに、こんなに時間がかかるものなのか―ルドルフは次第に苛立ちを募らせてゆくようになった。
「おい、まだ村長には会わせて貰えないのか?」
「もう少しで村長の部屋に着きます。」
少女が突然ドイツ語で話しだしたので、ルドルフは驚愕の余り彼女を見た。
「お前、ドイツ語が話せるのか?」
「ええ。あなた方の会話を納屋の外で聞いておりました。ここから逃げ出そうと企んでいらっしゃるようですが、無駄ですよ。」
少女は微かに首を傾げながら、そう言ってくすりと笑った。
一瞬彼女の黒い瞳が、暗赤色に煌めいた。
その色は、あの魔女と同じ色だった。
「お前は、あの女の仲間なのか?」
「あの女? 誰のことです?」
「とぼけるな!」
ルドルフは少女を睨み付けると、彼女の手首を掴んだ。
「あの納屋はなんだ? この村で一体何が起きている!?」
「わたしは何も存じません。全ては村長様がご存知です。」
少女はそう言ってルドルフの手を振り払うと、村長の部屋の前に座った。
『失礼いたします。』
『入れ。』
少女は襖を開き、部屋の中へと入っていった。
ルドルフも慌てて彼女の後に続いた。
『ほぉ、美しいな。髪と瞳の色がよく映えている。沙良、お前は下がっていいぞ。』
『はい・・』
沙良はちらりとルドルフの方を見ると、部屋から出て行った。
『こちらへ来い・・』
村長と2人きりになったルドルフは、襖の前から一歩も動こうとしなかった。
それよりも彼は、あの少女の事が気になっていた。
彼女はあの魔女の仲間なのか、それとも・・
『来いと言っているだろうが!』
村長はルドルフの手を掴むと、自分の方へと引き寄せられた。
「離せ・・」
『何て美しいんだ・・』
村長のしわがれた手が、紫の振袖の衿元を無理矢理開くと、布団の上に組み敷いた。
「やめろ・・」
しわがれた手が、乱暴に自分を犯そうとしていることに気づき、ルドルフは激しい怒りに駆られた。
それと同時に、何かが身体の奥底から湧きあがって来る感覚がした。
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