「奥様、失礼致します。」
総美の寝室をノックすると、気だるい声で入れと彼女が言ったので、執事の山崎は軟膏を持って寝室へと入った。
そこには昨夜の情事の余韻に浸り、自慰をして上り詰めた後に恍惚とした表情を浮かべている総美が寝台に寝転がっていた。
「奥様、薬をご用意いたしました。」
「ありがとう、山崎。」
鬱陶しげに前髪を掻きあげた総美は、身体を反転させると紅襦袢の腰紐を解いてうつ伏せに寝台へと寝転がった。
「失礼致します。」
山崎がそう言って軟膏をサイドテーブルに置き、軟膏の蓋を開けて背中の傷を見ると、そこは土方によって鞭で強かに打たれて赤い蚯蚓(みみず)腫れの跡が残っていた。
「酷いですね・・」
「わたくしがあの人を怒らせてしまったから悪いのよ。でもお前が来る前、昨夜の事を思い出して達してしまったわ。」
山崎に軟膏を塗られながら、総美はクスリと笑って昨夜の事を思い出した。
昨夜、土方は千尋の手を鞭で打った後、それを自分の背中にも何度も振りおろしてきた。
痛みとともに、土方によっていたぶられる感覚が快感を呼び起こし、シーツが愛液で濡れてしまった。
『あなたぁ、もっと打って頂戴!』
気がつけば、土方に向かってそんな言葉を吐いていた。
他の男から乱暴に扱われるのは嫌だが、土方だけは別だ。
彼に無理矢理奉仕を強要させられ、言葉で責められても、何故か嫌だとは思わなかった。
寧ろ、その逆だった。
「奥様、何故旦那様の言いなりになっておられるのですか?」
「さぁ・・わたくしも解らないの。あの人に責められると思うだけで、身体が熱くなってしまうのよ。」
いつから彼に乱暴な扱いを受けながらも感じてしまう身体になってしまったのだろうと、総美は記憶の底を掘り起こしていた。
土方と初めて出逢ったのは、総美が尋常小学校の卒業を控えた年の頃だった。
幼い頃から病弱だった彼女は、身体を鍛えるために剣道と薙刀を習っていたが、通っていた道場の交流試合で土方と出逢ったのだった。
面長で色白、意志の強そうな眉と切れ長の黒い瞳、そして華奢でありながらも鍛え抜かれた身体に、男というものを知らなかった総美は彼とたちまち恋に落ちた。
だが土方にとって総美は、自分の後を金魚の糞の如く纏わりつく汗臭い剣術小町としか見ていなかったし、処女の相手は面倒だと思っていた。
しかし、総美は土方を何としても自分の夫にするまで諦めなかった。
女学校に入学し、初潮を迎えて女らしい丸みを帯びた身体つきへと成長してゆく中、総美の美貌はたちまち道場界隈で評判となり、数多の縁談が彼女の元へと持ち込まれたが、それらをすべて彼女は断った。
「どうしてお断りするの?」
「お姉様、わたくしは土方様の妻になるまで諦めませんから!」
そんな総美との思いとは裏腹に、土方は酒と女に溺れる日々を送り、総美の事は完全に忘れていた。
そんな中、総美は女学校の帰りに暴漢に犯されそうになり、偶然通りかかった土方に助けられた。
「土方様、お願いがございます。」
「何だ?」
「あなた様の妻に、してくださいませ。」
総美からの告白に、土方は無反応だった。
まだ彼は、彼女を子ども扱いしていたのだ。
「生娘が寝ぼけたこと言ってんじゃねぇよ。男を知ってから俺を誘惑できるようになってから言いやがれ。」
そんな言葉を彼から投げつけられた総美はショックを受け、数日間寝込んだ。
「一体どうしたというの? お粥すら口に出来ない程、悪いの?」
心配して部屋に入った姉のみつに、総美は涙ながらに訴えた。
「土方様の妻になれぬのなら、自害致します!」
「落ち着きなさい、総美!」
姉の制止を振りきり、総美は亡くなった父親の書斎に入ると、彼の形見である拳銃をこめかみに当て、躊躇い無く引き金を引いた。
漸く山崎さんを出しました。
突然ですが、土方さんと総美の馴れ染め編に入ります。
総美は土方さんに一目ぼれ。でも彼は自分のことに眼中にはない。
何とかして彼の心を射止めたい総美は、ある手段に出ることに・・。
“尋常小学校を卒業する頃”なので、この頃総美は11か12です。
そのころからヤンデレてたのか。いや、そうしたのはわたしだけれども。
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