「大丈夫?」
「はい、何とか・・」
総美が嘔吐して倒れ、斎藤に寝室へと運ばれた後、騒ぎを聞いていた美佐子が屋根裏部屋のドアをノックした。
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません・・」
ドアを開け、自分に頭を下げた千尋のワンピースは無残にも引き裂かれ、白い肌と下着の上から乳房が覗いていた。
一目見て、彼女が誰に何をされたのか、美佐子には解った。
「大丈夫よ。今お医者様がいらっしゃるから、診察して貰いなさい。」
「はい・・」
覚束ない足取りで屋根裏部屋から出ようとした千尋は、バランスを崩して転びそうになったのを、美佐子が慌てて支えた。
「本当に大丈夫なの? 何処か痛いところはない?」
「いいえ・・」
美佐子を心配させまいと千尋は彼女の問いにそう答えて歩き始めた時、内腿から破瓜の血と白濁液が混じったものが滴り落ちた。
「あ・・」
千尋が美佐子を見ると、彼女は何も言わずに自分を抱き締めてくれた。
「痛かったでしょう。酷い事をされて・・わたしがついているから、心配要らないわ。」
「ありがとう・・ございます。」
親子ほど年の離れた美佐子に抱き締められ、千尋は少し安心した。
「浴室に行きましょう。汚れたままでは気持ち悪いから・・」
そっと千尋から離れた美佐子は、彼女の肩に腕を回して歩き始めた。
千尋は、ここを出て行こうと決めた。
土方に金で買われ、女郎の代わりに抱かれたのだから、遊郭に身を堕としてもこの際構わないと彼女は思った。
「千尋。」
土方が自分に声を掛けていることに気づいたのは、総美の寝室の前を通り過ぎたところだった。
「あ・・」
千尋はビクリと肩を震わせると、土方にそっぽを向いた。
彼の声を聞くだけでも、震えが止まらない。
「何処へ行く?」
「浴室で身体を洗おうと思いまして。では旦那様、これで失礼します。」
美佐子が千尋を土方から庇うように彼女の肩を抱くと、一階の浴室へと降りていった。
(俺は、何て事をしちまったんだ!)
激情に駆られ、年端もゆかぬ千尋を犯した。
その罪はいくら悔み、償っても許されるべきではない。
千尋は傷物とされた過去を一生背負っていかなければならないのだ。
「土方君、おめでとう。」
不意に背後から声が聞こえ、土方が振り向くと、そこには笑顔を浮かべた大鳥が立っていた。
突然祝いの言葉を掛けられ、土方は首を傾げた。
「何がめでてぇんだ?」
「何って・・総美さんは懐妊しているよ。今9週目に入ったところだよ。」
「本当・・なのか?」
「僕は医者だよ。」
大鳥はそう言って笑うと、土方の肩を叩いた。
(俺が父親に? 罪を犯したこの俺が人の子に?)
土方は混乱しながらも、妻の寝室に入った。
「あなた。」
そこには、先ほどの狂った妻の姿はなく、下腹を撫ぜながら自分に笑顔を浮かべる彼女の姿があった。
「総美・・」
「あなた、漸くわたくし達も親になれるんですのね。」
一度死産した経験を持つ総美にとって、今回の妊娠は涙が出る程嬉しかった。
やっと、土方の子どもが産める―彼女はそう思いながら夫を見ると、彼は信じられない言葉を口にした。
「総美、済まねぇが、子どもは諦めてくれないか?」
その言葉を聞いた瞬間、総美の心は瞬時に凍った。
総美の妊娠発覚。
土方さんはどうするのか。
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