「なんだぁ、ここは何処だぁ?」
歳三は顔面を絨毯が敷かれた階段に強打し、あっという間に酔いが醒めた。
ぶつけた額を擦りながら、歳三はゆっくりと階段を上がった。
するとそこには、サーカス小屋のような、天幕が張られた部屋が広がっていた。
(もしかしてここが、闇オークション会場か?)
不意に話し声がして、歳三はさっと近くの壁に身を隠した。
「皆さま、今宵はこの闇オークションに来て下さり、感謝いたします。まずは可愛らしい人形をご覧あれ。」
部屋の中心に置かれている鳥籠に、11~12歳位の少女が閉じ込められていた。
「愛玩用として購入されるのも宜しいでしょう。さぁ、いくらから?」
出席者が次々と札を上げ、少女の値段が徐々につり上がってゆく。
(畜生、何とかあの子を助けねぇと。)
近くに武器になるようなものはないかと思い、がさごそと部屋中を探していると、鞭があった。
(これは使ったことがねぇが、やってみるしかねぇな!)
歳三は鞭を握り締め、鳥籠の方へと走った。
「それでは、こちらは6番の方にご落札・・」
「ちょっと待ったぁ!」
天幕の緞帳から降りてきた歳三は、主催者の男の顔面に蹴りを入れると、そのまま彼が持っていた鍵を奪い、鳥籠を開けた。
「今の内に逃げろ!」
「は、はい・・」
「商品を逃がすな、終え!」
突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)の出現に、会場は怒号に包まれた。
「てめぇらはちゃんと躾ねぇとな!」
口端を上げた歳三は、そう言って鞭を唸らせた。
「何だか裏が騒がしいな・・」
「何かあったのかしら?」
突然裏の方が騒がしくなり、パーティーの客達が何事かと訝しがった時、隠し扉が開き、“商品”の少女達が我先へと一目散に逃げ出してきた。
「やはり噂は本当だったな、大公。」
「ああ。」
ヨハンはそう言うと、少女の1人を捕えようとしていた男の額を撃った。
「副長、何処ですか!」
千尋がドレスの裾を摘みながら隠し部屋へと入ると、奥から鞭が唸る音がした。
「千尋、遅かったな!」
そこには犯人グループを容赦なく鞭打つ歳三の姿があった。
「許してくれぇ・・」
「煩ぇ。」
歳三は懇願する犯人の顔面を尖ったヒールで踏みつけた。
その後、闇オークションの主催者であるホーエルン伯爵と、彼の妻とその長男・ディートが逮捕され、事件は無事解決した。
「トシゾー、君には全く驚かせられるよ。鞭で伯爵一家を打ち据えるとは。」
「まぁ、本当は刀で切り刻んだ方がスカッとしたんだが。で、あの金髪気障野郎は?」
「さぁな。騒ぎの最中に何処かへ逃げたらしい。」
ルドルフはそう言うと、溜息を吐いた。
「ったく、もう女装はこりごりだぜ。あ~、足痛ぇ。」
「お疲れ様です、副長。」
「千尋、いい加減“副長”は止めやがれ。」
「では何とお呼びすれば? 土方さん?」
「名前で呼べよ、名前で。」
「じゃ・・じゃぁ、歳・・様?」
「まぁ、それでいいよ。」
歳三は照れ臭そうに笑うと、千尋にそっぽを向いた。
「そうか・・ホーエルン伯爵が逮捕されたか。ディミトリだけが無事とは、あの一家は使えないな。」
ウィーン郊外にある邸の一室で、1人の男がそう言って誰かとチェスをしていた。
「あの両性の悪魔と黒髪の悪魔が絡んでいるな。全く、忌々しい害虫どもめ。」
「彼らの始末はわたくしにお任せを、閣下。」
チンツ張りの椅子に座った男の背後から、30代前半と思しき泣きぼくろがある青年がそう言ってほくそ笑んだ。
「期待しておるぞ、我が天使よ。」
男が蝋燭の火を吹き消すと、部屋はたちまち漆黒の闇に包まれた。
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