窓の外を見ると、遠くから松明の炎が徐々にこちらへと迫って来るのが見えた。
「畜生、こんな筈じゃなかったのに!」
「落ち着け、アンネリーゼ!」
リュシリューとアンネリーゼは怒鳴りながら廊下を走って行った。
(今だ!)
裏口から出て森を抜ければ、歳三達と合流する事が出来る。
千尋はそっとドアを開け、彼らに気づかれないように階段を降りて裏口へと向かった。
「お前達は裏に回れ!」
「トシゾー、早まるなよ。」
「わかってるよ・・」
ルドルフ達がそんな会話を館の前でかわしていると、窓に何かが光ったような気がした。
「危ない!」
ルドルフを狙った銃弾は、近くの木々を掠めた。
歳三が窓を見ると、拳銃を握ったアンネリーゼがじっと彼らを見下ろしていた。
「ルドルフ、怪我はないか?」
「ああ、奴ら銃を持ってやがる!」
「突入するぞ!」
ルドルフと歳三達が館の中へとなだれ込むと、歳三の後ろに居た兵士が突然倒れた。
「全く、使えない奴らだよね。」
ドアの陰から姿を現したのは、変な武器を持った金髪の少年だった。
彼は釘を武器に入れると、歳三に向かってそれを放った。
歳三は刀でそれを払い、少年を睨みつけた。
「てめぇ、何者だ!」
「あんたが俺の遊び相手? 久しぶりに暴れられそう。」
少年はそう言って舌なめずりをすると、歳三を見た。
一方裏口へと向かっていた千尋は、遠くでルドルフの声がしたので振り向くと、丁度彼がアンネリーゼと刃を交えているところだった。
ルドルフは自分に気づいていない。
彼を呼ぼうと口を開けた千尋の額に、リュシリューが銃を突き付けた。
「そのまま裏口を出て、湖へ行け。」
憎しみに滾った瞳で、リュシリューは千尋を睨んだ。
「残念ですね、皇太子様。あなたの事を愛していたのに!」
「抜かせ!」
アンネリーゼと刃を交えていたルドルフだったが、先ほどから彼女に押されぱなしだった。
「チヒロは、彼女は何処に居る?」
「今頃、兄が始末しているんじゃないかしら?」
アンネリーゼがそう言って笑った瞬間、彼女の額を釘が貫いた。
「大丈夫か、ルドルフ?」
「ああ。」
ルドルフが歳三を見ると、壁際に金髪の少年がぐったりと倒れて動かなくなっていた。
「恐らくあいつは湖だ。」
(千尋!)
2人がシュタルンベルク湖に向かうと、その中央には一艘のボートが浮かんでおり、リュシリューが千尋の額に銃を突き付けていた。
「もう観念しやがれ!」
「畜生!」
リュシリューがそう叫んで千尋を撃とうとした時、草叢から狼が飛び出してきて彼の腕を噛んだ。
「千尋!」
「歳様!」
千尋はバランスを崩してボートから蒼く輝く湖面へと落ちていった。
(息が出来ない・・)
必死にもがいていた千尋だったが、服の重みを受けてその身は徐々に底へと沈んでいった。
―助けてあげる。
突然頭上から声がしたかと思うと、千尋は誰かに身体を引っ張られた。
(c)Abundant Shine
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