「久しぶりだな、トシゾー。元気そうで何よりだ。」
住宅部分の二階の居間に通されたルドルフは、そう言ってソファに腰を下ろした。
「お前ぇ、酷い顔してるな。ちゃんと食べてるのか?」
「ああ・・一応な。まぁ活動どころで、食事なんて出来ないほど忙しいがな。」
「やっぱり噂は本当だったのか? お前ぇがヤバい連中と付き合ってるって・・」
「彼らは確固たる意志を持って行動する革命家だ。少々方法は手荒だがね。」
ルドルフの言葉に、歳三は眉を顰めた。
彼が付き合っている革命家達の「主張」は、手荒どころか残虐に近いものであった。
彼らはこの前も「格差の是正を正す為」という主張の名の下、ウィーン市内の銀行を爆破し、24人もの死傷者を出した。
その連中と一国の皇太子であるルドルフが付き合っているとなると、帝国政府が黙っていないだろう。
「お前ぇ、危ない橋を渡っているんじゃねぇのか?」
「まぁな。かといって戻ることが出来ないのさ。あとは進むのみだ。」
「ルドルフ・・」
歳三は目の前に座っている友人を見た。
出逢った頃、彼は自信に満ち溢れて光り輝いていたが、今はその輝きが失せ、死の陰に怯えているように見えた。
「トシゾー、頼みがあるんだが。」
「何だって聞くぜ。」
「娘の誕生日にケーキを作って欲しいんだ。」
「それならお安い御用だぜ。」
「ありがとう・・」
ルドルフはそう言ってフッと笑った。
それは何処か悲しげな笑みだった。
数日後、ルドルフの一人娘・エリザベートことエルジィは6歳の誕生日を迎え、ホーフブルクでは華やかなパーティーが開かれた。
「お誕生日おめでとうございます、エルジィ様。」
「ありがとう。」
沢山の人達からお祝いの言葉を言われ、沢山のプレゼントを貰ってエルジィは上機嫌だった。
この日は、いつもは王宮を留守にしている大好きな父親が自分の傍に居てくれる嬉しい日だった。
「エルジィ、誕生日おめでとう。」
「ありがとう、お父様。」
「お父様からのプレゼントは、今日は一日中お前と一緒に過ごすことだよ。気に入ったかい?」
「うん!」
エルジィを膝の上に乗せたルドルフは、千尋達が彼女の為に作った誕生日ケーキを運んでくるのを見ていた。
「お誕生日おめでとうございます、エルジィ様。」
「ありがとう。」
エルジィは、千尋達が作ったケーキを見て歓声を上げた。
「可愛らしいお嬢様ですね。」
「ああ、わたしの宝物だ。」
ルドルフはそう言うと、エルジィを抱き締めた。
「何なの、あの人達?」
ルドルフ達の様子を見ていたマリーは、ぎりぎりと唇を噛み締めながら歳三達を睨みつけた。
「皇太子様のご友人で、ウィーン下町でパン屋を営んでいるそうよ。」
「ふぅん、そうなの。だから皇太子様と親しいのね。」
マリーの頭に良からぬ企みがひらめいた。
「ねぇ、そこのあなた。」
千尋と歳三が後片付けを終えて王宮から出ようとすると、突然背後から1人の令嬢に声を掛けられた。
「何でしょうか?」
黒髪の、少しつり目がちの令嬢は、千尋を見てこう言った。
「あなた、皇太子様のご友人だというのは本当かしら?」
「ええ。それが何か?」
「どういったお知り合いか知らないけれど、皇太子様はわたくしに夢中なの。言いたい事はそれだけよ、じゃぁね。」
マリーは勝ち誇ったような笑みを口元に浮かべると、さっとドレスの裾を翻して母親の元へと向かった。
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