1912(明治45)年2月14日。
「はい、総司兄様。」
そう言って土方家の長女・椿は長男・総司にチョコレートを手渡した。
「椿、ありがとう。お前からこうしてチョコレートを贈られるのは、いつまで続くのかな?」
「わたしがお嫁に行くまでよ。あぁでも、お兄様はたくさんお相手がいらっしゃるからわたしがチョコレートを贈らなくても別に困らないわよね?」
椿がそう兄をからかっていると、ダイニングに父・歳三が姿を見せた。
「お前ぇら、仲が良いなぁ。だが14にもなって兄貴にベッタリしているのは感心しねぇなぁ。」
歳三は呆れたように総司に抱きついている娘を見て溜息を吐いた。
「あら、だってお兄様とお父様、それに巽や斎藤以外の男の方は、余り素敵じゃないんですもの。」
「恋愛すらしてねぇ小娘が何をほざきやがる。嫁の貰い手がなくなるぞ。」
「あら、ご心配なく。お父様のようにあちこち種をばら蒔いては浮名を流すような殿方には騙されませんから。」
ああ言えばこう言うといったように、歳三に反論した椿の言葉に、彼はぐうの音も出なかった。
「そういえばお母様は?何処かへお出掛けになられたのかしら?」
「千尋は長崎のお義母さんの所に行ったと、昨夜伝えた筈だろうが。まぁ、お前ぇは何か考え事をしていて聞いてなかったようだから仕方ねぇけどな。」
「まぁ酷いわ、お父様ったら!」
土方家のダイニングに親子3人の笑い声が響いた時、執事長の斎藤が入って来た。
「旦那様、お客様が来られました。」
「そうか。書斎に通せ。」
「かしこまりました。」
斎藤はそう言うと、総司と椿に頭を下げ、ダイニングから出て行った。
「お客様ってどなたかしら?」
「さぁね。それよりも巽はまだ部屋なのかな?いつも早寝早起きしているあいつが寝坊だなんて珍しいや。」
「わたしが起こしてくるわ。」
椿はドレスの裾を摘んでダイニングを出ると、二階にある巽の部屋へと向かった。
同じ頃、巽は突然我が身に起きた異変に戸惑っていた。
股間から異様な生臭さを感じて起きると、そこには尿とは違う乳白色の液体が寝間着を濡らしていた。
(なんだろう、これ・・)
性に関する知識は父の書斎にあった医学書を時折盗み読んでいたので知っていたが、実際に起こるとなるとどう対処すればいいのかわからない。
「巽、起きているの?」
巽が溜息を吐いていると、ドアの向こうから姉の声が聞こえた。
「姉様、お父様かお兄様を呼んできてくれない?ちょっと困ったことになったんだ。」
「困った事?わかったわ。」
巽の言葉に何か勘付いた椿は、踵を返してダイニングへと戻った。
「お兄様、巽が呼んでいるわ。何やら困った事が起きたんですって。」
「困った事?」
「どうやら巽も大人の仲間入りをしたようね。」
「ふぅん。」
総司が巽の部屋に入ると、彼はベッドで困惑気味に自分の股間を見ていた。
「兄上、これどうすればいいの?」
「どうするも何も・・今夜は斎藤に赤飯を炊いて貰うように頼まないとな。お前も漸く大人の仲間入りをするんだから。」
総司は弟を安心させるかのように彼の肩をそっと抱くと、そう言って微笑んだ。
「斎藤、今夜赤飯を炊いてくれないかな?ちょっとめでたい事があってね。」
「左様ですか。これで三度目ですね、赤飯を炊くのは。」
斎藤は仕事の手を休め、総司を見た。
「そうだね。男兄弟の中に妹一人っていうのは、ちょっと厄介じゃないかなぁと思ってるんだけど、お前はどう思う?」
総司はけだるそうに、厨房の柱に寄りかかった。
「さぁ、わたくしは何も言えません。」
斎藤が包丁を握り、じゃがいもの皮を剥いていると、総司も彼の隣に立って包丁を握った。
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Last updated
2016.05.26 14:45:04
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