「単刀直入に言う、何故総司を告発した?大西某と同じように、てめぇも総司が生意気だったからっていうつまらねぇ理由からか?」
歳三はそう言うと、桟橋にもたれかかっている直人を見た。
「まさか。総司に罪を着せてしまったことはお詫びいたします。大西がしたことは僕が始末をつけます。それよりも土方さん、この国をどう思いますか?」
「急にそんな事を聞かれても困るな。明治の世になって早45年、もうすぐ列強の仲間入りを果たそうとしてるんじゃねぇか?」
「そうでしょうか。徳川から残る身分や悪習は未だに蔓延り、人々を苦しめている。敗者は勝者に蹂躙される。それが45年も続いているなんて、愚かしいと思いませんか?」
「まぁな。俺ぁ農家の末っ子として生まれて、色々と理不尽な目に遭ってきたからよ。てめぇの考えは良く解る。だがな、罪をでっちあげて他人を陥れようとするなんざ、お前ぇが憎んでいる連中と同じってこったな。」
歳三はそう言うと、咥えていた煙草を川へと放り投げた。
「あばよ。もううちに出入りするな。総司は事情があってお前ぇと縁切りすることにしたと手紙で知らせておく。」
「ありがとうございます。アメリカに行く手間が省けました。」
直人は不敵な笑みを浮かべて、歳三に背を向けた。
「お帰りなさいませ、旦那様。」
「ただいま。」
直人と日本橋で対峙した後、歳三が帰宅すると、斎藤が彼の方へと近づいてきた。
「後でクッキーをお部屋に運びましょうか?」
「ああ、頼む。」
斎藤と歳三は少し目を合わせると、斎藤は自分の持ち場へと向かった。
「あ、斎藤さん・・」
斎藤が厨房に入ると、メイドが気まずそうな顔をして彼を見た。
「何か問題でも?」
「いいえ・・」
「では、エプロンの中に隠していたものはなんだ?」
斎藤はそう言うと、メイドのエプロンのポケットが少し膨らんでいることに気づいた。
「え、わたしは何も・・」
「ポケットの中を見せなさい。」
「はい・・」
彼女は俯いて、ポケットの中からクッキーの袋を取り出した。
「これをどうするつもりだったんだ?これは旦那様やお嬢様達にお出しする、お客様からいただいた大切なものなんだぞ!」
「申し訳ございません。子ども達に食べさせてあげたかったものですから・・」
「ならば泥棒のような真似をせず、素直に旦那様にお頼みしたらいいのだ!この事は旦那様に報告しておく。処分が決まるまで自宅で謹慎していなさい。」
「はい・・」
メイドは俯き、厨房から出て行った。
「全く、君って人は頭が相変わらず固いねぇ。クッキーのひとつやふたつ、あげてもいいじゃない。」
背後から神経を逆なでするかのような声が聞こえて斎藤が振り向くと、そこには理哉が壁にもたれかかるようにして立っていた。
「あなたのところはそうかもしれませんが、我が家には我が家のやり方がございます。」
「ふぅん、そうなの。」
理哉は翡翠の瞳を細めると、厨房を後にして書斎へと向かった。
「土方さ~ん、愛しの弟が来ましたよ~!」
「誰が“愛しの弟”だ!てめぇが来ると碌な事がねぇんだよ!」
「千尋ちゃんは?」
「あいつなら友人達と午後のお茶会さ。お前の連れ合いも居るぜ。」
「そう。あぁ、ひとつ報告があって来たんだった。純は学習院じゃないところに行くことになったから。」
「そうか。じゃぁな。」
「冷たいなぁ、もう。暫く会えないのにぃ。」
理哉はそう言うと、猫のように喉を鳴らしながら歳三にしなだれかかった。
「お前何処かに行くのか?」
「うん。ちょっと海外へね。」
「そうか、気をつけてな。」
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最終更新日
2016年05月26日 14時46分38秒
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