「美津様、どこへ行っていたのです?御前様がたいそうお怒りになっていましたよ。」
澪とともに美津が城門をくぐると、紺色の着物にたすきをかけて槍の稽古を終えたばかりの四郎がそう言って美津を睨んだ。
「ごめんなさい、市へ行っていて・・これからは、あまり市へは出ないわ・・」
そう言って美津は部屋へと駆けていった。
「美津様、お待ちを!」
四郎は槍をそこらへんに放って美津の後を追った。
「放してよ!」
美津は涙を流しながら、四郎の手を振り払った。
「何があったのですか?一体どうなされて・・」
「お前もわたしのことを人の血肉をすする鬼姫だと思ってるんでしょう!?」
美津の言葉を聞いて、四郎は美津の従者になったばかりの頃を思い出した。
城内では美津に対する心無い噂が広がっていた。
美津はいつも自分の部屋に閉じこもり、人の血肉をすすっている鬼姫だと。
その噂はたちまち城外にも広がり、美津は人々から“天女”と呼ばれていたが、その反面、“鬼姫”と呼ばれ恐れられていた。
城内でも美津に優しくしてくれるのは四郎と澪だけで、それ以外の者は美津のことを“鬼姫”と呼び恐れていた。
「四郎だって、わたしのこと恐ろしいんでしょ?わたしが人の血肉をすする鬼だから・・」
「そんなこと、思ったことはありません。」
四郎はそう言って美津を抱きしめ、懐紙で美津の涙を拭った。
「夜風はお体に障ります。部屋に戻りましょう。」
「ええ、わかったわ。」
美津はそう言って四郎と手を繋いで城内へと入っていった。
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Last updated
2012.03.07 15:18:16
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