「遅いわね、四郎・・」
美津は琴を弾く手を止めて、庭を眺めた。
四郎が客人の待つ稽古場へ行ってもう4時間もたつ。
四郎は無事なのだろうか?
美津は四郎のことが心配でたまらず、稽古場へと向かった。
そこには、あの少女の従者と四郎が激闘を繰り広げていた。
だが2人の顔は笑っている。
しばらくすると、2人とも相打ちで倒れた。
「・・やるな、お主。」
「お主こそ。」
四郎とエーリッヒはそう言って大声で笑った。
「2人とも何してるの?」
「姫様・・」
四郎は慌てて起き上がり、美津の方へと走っていった。
「いつまで経っても稽古場から帰ってこないから、心配してたのよ。」
「申し訳ございません。つい・・」
「でも、お前が無事でよかったわ。あら、そちらの方は確か・・」
美津はそう言ってエーリッヒを見た。
(確かあの子と教会で一緒だった・・)
「美津姫様、私はエーリッヒ=マクシミラン。あなたの従者は、相当腕が立つ者ですね。」
エーリッヒは美津の手の甲に接吻しながら言った。
「よろしくね、エーリッヒ。それにしても、何故四郎と戦っていたの?」
「いえ、彼が槍の遣い手だと聞いたので、一度彼と手合わせしたくなって。」
「そう・・2人ともお腹空かない?お父様がカステイラをくださったの。よかったら3人で食べないこと?」
「ですが、もう遅いですし・・」
エーリッヒはそう言いながらも、美津のそばにいたいと思った。
(凛様には申し訳ないが・・ここは美津姫様のお言葉に甘えるとしよう。)
「では、お言葉に甘えてご一緒にさせていただきます。」
稽古場を出る美津と四郎、エーリッヒを1人の侍女が木陰からじっと見ていた。
侍女はさっと身を翻し、城を出てもう1人の主の元へと向かった。
「・・そう、エーリッヒがあの鬼姫様と・・」
「はい、確かにこの目で稽古場からエーリッヒが鬼姫と出て行くのを見ました。いかがいたしましょう?」
凛は簪を取り、それで遊び始めた。
それはエーリッヒが自分に初めて贈ったものだ。
(お前は私を裏切るのね、エーリッヒ・・いいわ。お前のことをじわじわ苦しめてやるわ・・)
「お前の報告は聞かなかったことにするわ。さがりなさい、1人になりたいの。」
侍女が出て行って、凛は簪を握りつぶした。
「・・許さない、私を裏切る奴は、必ずひどい目に遭わせてやる!」
凛は簪を壁に突き刺し、部屋を出て行った。
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Last updated
2012.03.07 16:12:54
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