「おいしいですね、カステイラは。初めて食べました。」
エーリッヒはそう言ってカステイラを頬張った。
「どうして?イタリア生まれなら、何度か口にしたことがあるでしょう?」
美津はエーリッヒを見た。
「私は生後間もなく日本を離れ、父の一族に育てられましたから・・向こうでのことは全く覚えておりません。」
「まぁ、そうなの・・お母様はいらっしゃるの?」
「母は私を産んですぐに亡くなりました。もともと病弱な人で、難産だったものですから・・」
「ごめんなさい、わたし・・」
「いえ、いいんです。」
エーリッヒはそう言って四郎を見た。
「四郎殿は確か、農村の生まれでしたよね?何故城に?」
四郎は一瞬ムッとした表情を浮かべたが、淡々とした口調で自分の家族のことを話し始めた。
「私は9年前、飢饉の村から城へ奉公に来ました。うちは7人家族で、当時は食べることすらままならない生活が何日も続いて・・父は私と母、幼い4人の弟妹達と心中することまで考えたそうです。そんなときに私たちに救いの手を差し伸べてくれたのは、殿でした。」
四郎はそう言って昔のことを懐かしむように言った。
「城ではさんざん陰口や暴力を振るわれ、辛い思いをしましたが、今となってはいい思い出です。どんなに悲しく辛いことがあっても、いつかいい思い出となり、笑って話せるのだという父の言葉を時折思い出しながら、私は歯を食いしばって耐えました。」
「2人とも、大変だったのね・・それなのにわたしは、何不自由なく暮らして、今ある生活が当たり前だと思いながら毎日を過ごしている。そんな自分が恥ずかしいわ。」
美津はそう言ってうつむいた。
「そんなことはありません。姫様のおかげで私はここまでやってこれました。姫様の笑顔が、私を支えてくれたのです。」
四郎はそう言って、美津の手を握った。
「ねぇ、3人で友情の誓いを交わしましょう。永遠にこの友情が続くように。」
美津の提案に、四郎とエーリッヒはうなずいた。
美津は千代紙でできた引き出しを開け、この前市で買ったそろいの指輪を取り出した。
そのデザインは中央にトパーズがはめ込まれただけの、植物文様のシンプルなデザインをした銀の指輪だった。
「これなんかどうかしら?はめないときは鎖を通して首にかけられるし。」
「いいですね。」
「それに、トパーズの宝石言葉は“友愛”っていうのよ。」
美津、四郎、エーリッヒはそろいの指輪を嵌めて、互いに微笑みあった。
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Last updated
2012.03.07 16:15:21
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