「あいつらにお仕置きをしてやったわ。」
そう言って娘は笑いながら女中達の血に濡れた洋剣を舐めた。
「お嬢様、何もあそこまでやらなくても・・」
「わかっていないのねぇ、お前は。お喋りな奴は舌を引っこ抜かなきゃいけないわ。二度と余計なことを喋らないようにね。」
娘は銀色の刀身を汚している赤黒い液体を、器用に舌で舐め取っていった。
「そんなことをしたら、そなたの舌が切れてしまうのではないか?わたしにとってはその方がよいかもしれんがな。」
凛とした声が裏庭に響いたかと思うと、闇の中から銀髪の男が幽霊のように現れた。
「あら、来てくれたのねv」
娘は黄金色の瞳を嬉しそうに光らせながら男を見た。
「その男は?」
銀髪の男―鬼神はそう言って娘の隣に控えている丁髷の男を見た。
「わたしはお嬢様にお仕えする、猶間匡家(なおまただすけ)と申す。そなたは?」
「わたしに名はない。敢えて名乗るなら、惟(ゆい)と名乗っておこう。」
鬼神は匡家をチラリと見ながら言った。
「どうしたの、こんなところにわざわざ来るなんてvいつもはこんな堅苦しいところ、来たくないって言って寄り付かないのにぃ。」
「ちょっとお主に用があってな。」
鬼神はチラリと匡家を見て行った。
「少し、席を外してくれるかしら?」
「いいえ、ここにおります。」
匡家は鬼神を睨みながら、娘の隣に座った。」
「お前は空気ってものが読めないのね。それでもわたしの従者なの?」
呆れたような溜息を吐き、扇子を開いた。
「わかりました。」
匡家は鬼神を睨みながら部屋を出て行った。
「話とはなんだ?」
「あのね、父上が今長州の方々とお付き合いしていらっしゃることは、ご存知よね?」
「ああ。それがどうした?」
「ちょっと耳を貸して。」
娘は鬼神の耳元で、何かを囁いた。
「そうか・・それはよい手だな。」
鬼神の真紅の瞳がきらりと光った。
「そうでしょう?あなたは鬼姫様を自分のものにしたい。わたしはあの従者を手に入れたい。この作戦ならお互いに欲しい物が手に入れられるじゃない?」
「それはそうだな。また来る。」
鬼神はそう言って娘に背を向け、彼女の部屋を出て行った。
「お嬢様と何を話していた?」
部屋を出た途端、匡家はそう言って鬼神の胸倉を掴んだ。
「何も話してなどいない。もし彼女と話していたとしても、それはそなたには関係のないことだ。」
「関係のないことだと?」
「ああ。彼女にとってそなたは忠実な犬に過ぎぬからな。」
匡家の黒真珠の瞳と、鬼神の紅玉の瞳との間に静かな火花が散った。
「・・もしそうだとしても、わたしは一生お嬢様にお仕えする。お前などにお嬢様を渡すものか!」
匡家はそう言って鬼神を突き飛ばし、屋敷の中へと入っていった。
「愚か者め。そなたがあの娘の心を掴めると思っているのか?人間はいつも愚かな者よの・・」
鬼神は口元に冷笑を浮かべながら、闇の中へと消えていった。
その頃京から遠く離れた横浜の、とある英国人商人と、数人の侍達があるものを取引しようとしていた。
「これで足りますかな?」
商人がそう言って侍の1人にあるものを渡した。
「ええ、充分です。」
侍は懐紙に包まれたものをそっと取り出した。
それは高純度の阿片だった。
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Last updated
2012.04.01 22:09:12
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