「姫様っ!」
美津を人質に取られた四郎は、抜刀した。
「刀をお捨てなさい、さもないとあなたの愛しい人が死ぬことになりますよ。」
聖人は美津の首筋に刃を突き立てながら、冷静な口調で言った。
「貴様たちは一体何を企んでいる!」
「そんなに怒ることないでしょ、四郎?わたし達はただ退屈を紛らわしたいだけなのよ。」
凛は笑みを浮かべながら2人の様子を見ていた。
「少しお話ししましょうか?あなたが刀を捨ててからね。」
「信用できん、刀を捨てたら不意打ちする気だろう?」
「そんな卑怯な真似はしませんよ。まぁ、それもあなた次第ですが。」
聖人の浅葱色の瞳が、残忍な輝きを放ちながら美津を見た。
「わたしに何をさせるつもりだ、貴様ら。」
「やっと聞いてくれたわね、肝心なこと。じゃあ教えてあげるわ、お前がすべき事を。」
凛はけたたましく笑いながら四郎へと駆け寄り、彼の耳元で何かを囁いた。
「わたしに・・汚れ仕事をしろというのか?姫様の命を盾に取り姫様を裏切るように命じて、今度は汚れ仕事をしろと・・貴様らは人の心など持っていない、貴様らは鬼だ!」
四郎はそう叫ぶと、聖人と凛を交互に睨みつけた。
「何とでも言いなさいな。ここでわたしたちの要求を呑んだ方がお前の為よ。お前の大好きな姫様が酷い目に遭わないように済むにはね。」
凛は四郎に顔を近づけ、黄金色の瞳で彼の顔をじっと覗きこんだ。
「さあ、どうするの?今すぐわたしたちに協力すると言うのなら、あなたの大好きな姫様は解放してあげる。それと反対のことを言うのなら、お前と姫様を今すぐ八つ裂きにして野良犬の餌にでもしようかしら?」
四郎は首筋に刃を突き立てられている美津と目が合った。
(彼らに協力しちゃだめ、四郎・・すればあなたはあいつらと同じになってしまう・・)
四郎は暫く美津を見ていたが、凛の方へと向き直った。
「わたしは何をすればいい?」
「賢いわねぇ、お前って。惚れ直したわ。」
凛は四郎にしなだれかかり、美津に向かって勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「聖人、姫様を離してあげて。もう話は済んだから。」
「わかりました。」
聖人はそう言って乱暴に美津の背中を押した。
「姫様っ!」
畳の上に倒れそうになるところを、四郎が寸でのところで抱き留めた。
「わたし達に逆らわない方が身のためよ、お二人さん?もし逆らったら、どうなるかわかるわよね?」
「お前には負けるものか、どんなことがあっても!」
美津はキッと凛を睨みつけながら叫んだ。
「随分と強気ねぇ。昔からあなたは気高くて、凛としていたわよね・・それは今になっても変わってないのね。でもそんな強気な態度がいつまで続くかしら?」
凛は顔を醜く歪ませて大声で笑い始めた。
鬼女の高笑いを見ながら、美津と四郎は彼女に対する激しい怒りを感じていた。
「じゃあ、またね。」
凛の家を出た美津と四郎は、黙って歩いた。
「ねぇ四郎、あなたはあの人達なんかに協力しないわよね?あの女の手先なんかにならないわよね?」
「勿論です。いつか必ず家族の仇を取ってみせます。その日までわたしはあの女には従う気はありません。」
「その言葉が聴きたかったの。」
美津はそう言って四郎に頬笑み、彼の手を繋ごうと自分の手を伸ばした。
「決して姫様のお傍を離れません。死があなたとわたしを分かつまで。」
「約束よ、四郎。わたし、お前の事を信じているから。」
自分に微笑んだ美津の顔は、あの高笑いをしていた狂った鬼女の醜い顔とは違い、天女のような神々しさと美しさに満ちていた。
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Last updated
2012.04.01 22:23:34
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