横浜から京都へと旅立ち、数週間が経った。
マリーとロゼは、疲労と空腹でクタクタになりながら、やっと京へと着いた。
「やっと着いたわね、ロゼ。」
「ええ、お嬢様。」
「さぁ、お母様の髪飾りを探すわよ!」
2人は金剛石の髪飾りを見つけようと、アンジェが言っていた宝石商を探したが、収穫は何もなかった。
「一体何処に居るのよ・・」
苛立ちと疲労と空腹により、マリーの精神は限界に来ていた。
言葉も風習も文化も違う、見知らぬ土地を旅し、異人だ毛唐だと人々に石を投げられ、罵られ、ここまで来たと言うのに、髪飾りが何処にあるのかわからない。
(あの女さえいなければ、こんな苦労することなかったのに・・)
マリーの脳裏に、母の形見を盗んで売り払った狡猾なメイドの顔が浮かんだ。
(許さないわ、アンジェ・・絶対にわたしはあなたを許さない!)
「お嬢様、少し休まれてはいかがですか?」
ロゼの言葉に、マリーはカッとなった。
「何言ってるの、ロゼ!わたしはお母様の髪飾りを見つけるまで絶対に諦めないわ!」
「お嬢様、申し訳ありません・・出過ぎたことを・・」
ロゼはそう言って俯いた。
「・・少し苛々していたわ、怒鳴ってしまって御免なさい。少し休みましょう。」
マリーは侍女にそう微笑むと、近くの茶店へと向かった。
同じ頃、美津と四郎は巡回を終え、茶店で休んでいた。
「ねぇ、これからこの髪飾りの持ち主を探さない?このままわたしが持っておくのはいけないと思うの。」
「そうですね・・こんな高価なものが道端に落ちていたというのはおかしいですし・・」
「そうしましょう。」
美津がそう言って立ち上がろうとした時、店の入り口で言い争う声を聞いた。
「お代払って貰いまっせ!」
『だから、この指輪で払うって言ってるでしょう!』
「こんなもんじゃあかん!ちゃんと金で払え言うとんのや!」
店の主人と異人の少女が支払いを巡って口論となっていた。
「四郎、ちょっと行ってくるわね。」
美津はそう言って主人と少女の間に入った。
「どうなさったんですか?」
「この異人はんが代金踏み倒そうとしてはるんや!」
主人は茹でダコのように顔を怒りで赤く染めながら美津に唾を飛ばして叫んだ。
美津は少女の方に向き直った。
『あなたは代金を払わない気なの?』
目の前の日本人が突然英語を喋り出したので、少女は唖然とした表情で美津を見つめていたが、やがて我に返り、
『今はお金がないからこの指輪を売って払ってくれと言っただけよ。』
と憤然とした口調で言った。
美津は少女の言葉を主人に通訳し、主人は自分の非を詫びて少女から指輪を受け取った。
『ねぇ、待って!』
美津と四郎が茶店を後にして、屯所へと向かって歩き出そうとすると、背後から少女の声が追いかけてきた。
『さっきは助けてくれてありがとう。わたしはマリー、あなたは?』
『わたしはミツよ。宜しくね。』
『こちらこそ。』
美津が少女と握手しようとした時、金剛石の髪飾りが地面に落ちた。
髪飾りを見た途端、少女の蒼い瞳が大きく見開かれた。
『どうしたの?』
『やっと見つけたわ・・』
少女は大粒の涙を流しながら、髪飾りを拾い上げた。
これが美津姫と、貴族令嬢マリーとの出逢いであった。
1人の姫君と令嬢の運命は、時代の荒波に呑まれることとなるなど、この時2人は知るよしもなかった。
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最終更新日
2012年04月01日 22時41分24秒
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