(なんだかあの婆さんにさっきからすっげえ見られてるよ・・)
ステファニーは先ほどから、シャルステイン男爵婦人達の氷のような冷たい視線を感じて、居心地の悪さを感じていた。
社交界デビューの日に早々とお局様に目をつけられてしまった。
(とんだへまをやらかしちまった・・それに、普通の貴族のお嬢さんと比べて、俺は2年早くデビューしちまってるというのも、あの婆さんの癪(しゃく)に障ったのかなぁ・・)
通常、貴族や上流階級の家に生まれた子女は、18で宮廷に行って女王に拝謁してから社交界得ビューする。だがステファニーの場合、「本人の事情」により、2年早く社交界デビューを果たしたため、社交界のしきたりを破ったとシャルステイン男爵夫人から思われて睨まれてしまったのではないかと、ステファニーは思っている。
華やかな社交界の裏では、貴族達による醜い足の引っ張り合いが行われている。
シャンデリアやご婦人方の宝石で輝く華麗なるこの世界では、常日頃様々な陰謀が張り巡らされているのだ。
その社交界を取り仕切り、まとめ役となっているのは、他ならぬシャルステイン男爵夫人である。
彼女を味方につければ恐いものなし、逆に敵に回せば、彼女の影に一生怯えなければならないか、ご機嫌取りをするかのひとつにふたつにしかない。
だがステファニーは、シャルステインに媚びを売ったりする気などさらさらなかった。
今社交界を取り仕切っているのは彼女であっても、そこから一歩出れば彼女はただの婆さんではないか。そんな婆さんのご機嫌取りをするくらいなら、この際開き直って型破りなことをして婆さんに睨まれながら社交界ライフを満喫した方がいい。
幼い頃から鼻っ柱が強く、曲がったことは大嫌いという性格ゆえか、ステファニーはシャルステインにデビュー初日に睨まれたことを失敗と思わずに、熾烈な社交界を生き抜くための試練のひとつとして考えた。
(さっきはへまをやらかしたけど、1度失敗したら今度は気を付ければいいもんな。ケ・セラ・セラだ。)
ステファニーはそう思いながら2杯目のシャンパンをグッと飲み干した。
その時、誰かに肩を叩かれた。
「私と踊っていただけませんか、フロイライン?」
にほんブログ村