「失礼しますわ、『ル・モンド』はどちらかしら?」
ステファニーはそう言ってドアマンに微笑んだ。
「『ル・モンド』は、ロビーをまっすぐ行って右の突き当たりにございます。」
「そう、ありがとう。」
『ル・モンド』は、本場パリで修行したシェフやパティシエが本格的なフランス料理やスイーツを提供し、サービスが行き届いたフランス料理店で、貴族を中心とした上流階級の客に評判がいい。
ステファニーが店の中に入ると、ボーイに奥の特別席を案内された。
「お待たせしてしまいまして、ごめんなさい。 道が混んでいたものですから。」
「いいえ。私も今来たところですから。」
エドガーはそう言ってステファニーに微笑んだ。
「今宵のあなたは、とても美しい。宮廷でお見かけしたときよりも美しさが一段と上がっている。」
「まぁ、嬉しいことをおっしゃいますこと。」
ステファニーはそう言って前菜のマリネをナイフとフォークを使って口に運んだ。
「それにしても、ロンドンは観光するところがいっぱいで、どこへ行けばいいのかわからないな。」
エドガーは前菜のハムを切りながら言った。
「よければわたくしが、ロンドンを案内してさしあげましょうか?」
ステファニーは何故か、心にも思っていないことを言ってしまった。
「本当ですか?」
「ええ、穴場の人気スポットも知っておりますのよ。」
(何言ってんだ俺。どうしちまったんだ?)
心ではそう思いながらも、何故か口が勝手に動いてしまう。
やがて2人の前に、デザートが運ばれた。
「ここのスイーツ、一度食べてみたかったんですの。」
そう言ってステファニーがスプーンを手に取ったとき-
「エドガー様!」
背後で鋭い声がして、エドガーとステファニーが振り向くと、そこには黒髪でちょっと太めの女が立っていた。
「ミッチェル、客室で休んでいたんじゃないのかい?」
エドガーはそう言って婚約者を見た。
「わたくしというものがありながら、こんな女と・・」
ミッチェルはそう言ってステファニーを睨んだ。
(な、なんだ?)
ミッチェルはつかつかとステファニーに近寄り、グラスをとってステファニーに水を掛けた。
「わたくしの婚約者をたぶらかそうだなんて、汚い女! お前なんかとっとと路地裏に帰ればいいのよ!」
水を掛けられ、娼婦呼ばわりされたステファニーは頭に血がのぼり、ミッチェルに平手を打ち、水入れの中の水を頭から彼女に掛けた。
「それはこっちのセリフだ、このタカビー女! 誰が娼婦だ、あたしは歴とした貴族だこの野郎!」
にほんブログ村