ミッチェルは泣き腫らした目を化粧で隠して、ホテルを出た。
大陸行きの船は、もうすぐ出る。
だがミッチェルは、ウィーンに帰りたくなかった。
エドガーに拒絶され、ミッチェルの心は傷ついていた。
ウィーンへ帰る前に、エドガーに会いたい。
ミッチェルは重いトランクを抱えながら、ロンドンの街を歩いた。
くまなくエドガーの姿を探したが、彼の姿はどこにも見あたらない。
諦めて辻馬車を拾おうとしたとき、1台の馬車が彼女の前を通り過ぎた。
馬車の中には、エドガーとこの前『ル・モンド』でもめた女が乗っていた。
ミッチェルは馬車を必死で追いかけた。
やがて馬車は停まり、中からエドガーとあの女が降りてきた。
ミッチェルはこっそりと2人の後を付けた。
煉瓦造りの邸の中に、2人は入っていった。
ミッチェルは柵を飛び越え、2人の後を追いかけた。
ミッチェルが息を切らしながら邸の中に入ると、エドガーの声が聞こえた。
「私はあの夜あなたを一目見た時から恋に落ちてしまいました。あなたとだったらどんなに貧しく、苦しい生活でも耐えていけます。どうか、私と付き合ってください。」
見ると、エドガーがあの女に跪いて愛の告白をしている。
「何をしているの!」
ミッチェルは怒鳴りながらエドガーの元へと向かった。
「ミッチェル、どうしてここに?」
エドガーはそう言ってミッチェルを見た。
「エドガー、わたくしというものがありながら・・ひどいわ!」
ミッチェルはエドガーの頬に平手を打った。
「ミッチェル、私はもう君を愛していない。お願いだ、別れてくれ。」
「嘘でしょう・・嘘よね、そんなの!?」
エドガーから突然別れを告げられ、ミッチェルは涙を流した。
「わたくし、あなたと別れたくないの。あなた以外の人となんて、結婚したくないのよ!」
「ミッチェル、私達の婚約は間違いだった。」
エドガーはそう言って執事に目配せした。
「お客様、どうぞこちらへ。」
執事はミッチェルの手を掴んで言った。
「エドガー、考え直して! わたくしはあなたと・・」
執事はそう言ってミッチェルに有無を言わさずに彼女を邸から追い出した。
「どうして・・エドガー・・」
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