「おばあさま? どうしたんですか?」
ステファニーを前にして、ボーッとしているナターシャに、クリストフは声を掛けた。
「あら、ごめんなさい・・あなたと前から会ったような気がして・・」
「そう・・ですか。」
「こんなところではなんだから、場所を変えましょうか。」
ナターシャはそう言ってステファニーの手を取り、書斎を出ていった。
「どうしたんだろう、おばあさま。」
クリストフは首を傾げながら2人の後について書斎を出ていった。
3人は、薔薇が咲き誇るティールームで、冷たいレモンティーとクッキーを味わった。
ステファニーはロンドンでエドガーと出会ったこと、ウィーンでエドガーがさらわれ、ロシアまで来たことなど、これまでの経緯を全てナターシャとクリストフに話した。
「そう、そんなことがあったの。エドガーさんが見つかるまで、ここでゆっくりしていなさいな。ところで、彼のフルネームは、何て言うの?」
「エドガー=フィリップ=ロートリンゲン=フォン=セルフシュタインです。それが何か?」
「セルフシュタイン家といえば名門中の名門ね。あのハプスブルク家から枝分かれしたものだと言われてるほどよ。彼のフルネームが判ったなら、見つけやすいかもね。」
「そうですわね。」
「今日は色々と大変だってでしょうから、部屋でゆっくりと休みなさいな。」
「わかりました。優しいお心遣い、感謝いたします。」
ステファニーはそう言ってナターシャに頭を下げ、ティールームを出ていった。
用意された部屋は、薔薇の壁紙で飾られ、カーテンやベッドの天蓋はレースだった。
ナターシャがティールームに向かう途中、メイドに頼んでステファニーのために急遽部屋を用意させたのだろう、カーテンもベッドの天蓋も新品で、染みひとつなかった。
(最初会ったときは恐いばあさんかと思ったけど、優しいとこあるんだな。ここでしばらくゆっくりしながら、エドガーを探そう。)
その夜、ステファニーがベッドでぐっすりと眠っていると、ドアがノックされた。
「なぁに?」
眠い目をこすりながら、ステファニーはベッドから降りて、ドアを開けた。
「申し訳ございません、ステファニー様。ステファニー様にお会いしたいと言って、お客様が・・」
メイドがすまなそうな表情を浮かべながら、ステファニーに言った。
「お引き取りするようにいって。」
「それが、もうお通ししてしまいまして、客間の方でお待ちしております。」
「今から支度するから、少し待っててとお客様に伝えて。」