「ふぅ、疲れた。」
お茶会が終わり、ステファニーはリビングのソファであくびをした。
「ステファニーさん、気を抜いてはダメよ。誰かに見られているかもしれないんですからね。」
そう言ってナターシャはステファニーを睨んだ。
「すいません・・緊張が解けたのでつい・・」
「まぁ、無理もないわね。わたくしも若い頃はいつも緊張の連続だったもの。今夜は宮廷に出向いて陛下にご挨拶をしないとね。」
「お茶会でも緊張するのに・・陛下の前では何もしゃべれなくなってしまいそう・・」
ステファニーはそう言ってロンドンで社交界デビューした時のことを思い出した。
ビクトリア女王はステファニーに優しかったが、ロシア皇帝はどうなのだろうか。
「少し部屋で休んでおきなさい。そんなに緊張でガチガチでは、不安で死んでしまうわ。」
「はい・・」
ステファニーは部屋に戻り、ベッドに身を沈めた。
何時間、寝ていただろうか。
起きると何故か、枕元が濡れていた。
とても悲しい夢を見たが、内容は何故か覚えていない。
「ステファニー様、入りますよ。」
ドアがノックされ、メイドが入ってきた。
「今日のドレスはいかがいたしましょう?」
「ちょっと待っていて。」
ステファニーはそう言って旅行鞄の中からウィーンでゾフィーに貰い、大切に入れておいたドレスを取り出した。
「これにするわ。」
「かしこまりました。アクセサリーはどうなさいます? このドレスに似合うティアラなどがございますが。」
「持ってきて頂戴。」
数分後、メイドが宝石箱を大事そうに抱えながら入ってきた。
中を開けると、そこには真珠とダイヤが散りばめられた美しいティアラがあった。
「よくお似合いですわ。まるでどこかの国の皇女様のようですわ。」
「ありがとう。」
「素敵な夜をお過ごしくださいませ。」
メイドに見送られ、ステファニーはクリストフとナターシャが待っている玄関ホールへと向かった。
「お待たせしました。」
「まぁ、綺麗だこと。まるでどこかの国の皇女様のようね。」
ナターシャはそう言って目を細めた。
クリストフはステファニーのあまりの美しさに目を合わすことができないでいた。
「どうしたの、クリストフ? ステファニーさんのあまりの美しさに目が眩んだの?」
「そんなことは・・」
「じゃあ見てごらんなさいな。」
クリストフが顔を上げると、そこには薔薇色のドレスを着たステファニーが、自分に向かって微笑んでいた。
それを見たクリストフは、顔が徐々に赤くなっていくのがわかった。
同じ頃、シャウチェスク伯爵家では、ロイヤルブルーのドレスに真珠のネックレスをつけたアレクサンドラが、鏡の前でポーズを取っていた。
「エドガーさん、どう? 似合うかしら?」
そう言ってアレクサンドラは紺色の燕尾服を着ているエドガーに向かって微笑んだが、彼は窓を見ていた。
「今夜が楽しみだわ。あなたのエスコートで現れたら、みんなどんな反応を示すかしら?」
アレクサンドラはエドガーの腕に自分の腕を絡めながら言った。
「私に触るなと言っただろう?」
エドガーはそう冷たく言ってアレクサンドラの腕を振り払い、部屋を出ていった。
「ちょっと、どこ行くのよ!」
「私は先に行っている。君はゆっくりとしていろ。」
エドガーは一度もアレクサンドラの方を振り向かずに玄関ホールに向かっていった。
「何よ・・そんなにあの子が好きなわけ?」
自分を無視したエドガーに腹を立て、アレクサンドラは階段の手すりを蹴ったが、当たり所が悪くてますます機嫌が悪くなっただけだった。
「もう時間ね。行きましょうか。」
ナターシャはそう言って馬車へと向かった。
玄関ホールには、ステファニーとクリストフだけが残された。
「ステファニー、あの・・」
「なぁに?」
「今日の君、とっても綺麗だよ。」
クリストフは顔を赤らめながら言った。
「ありがとう。」
「い、行こうか。」
照れくさそうに言いながら、クリストフはステファニーに手を差し伸べた。
ステファニーはその手を握り、ともに馬車へと向かった。
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