「え? 陛下が本気で俺を第四王妃にするって?」
リシェーム王国の宮殿内にある自室で身支度をしていた聖良は、侍女から突然の知らせを聞いて彼女の方を振り向いた。
「ええ。何でも、あなた様を気に入られたとかで。それよりも、お気をつけください、セーラ様。」
そう言って侍女―サリーシャは聖良を見た。
「気をつけるって、あの第二王妃に?」
聖良の言葉に、彼女は静かに頷いた。
「どうやら、あのパーティー以来セーラ様のことを敵視されているようで。後宮に入って日が浅いのに陛下のお気に入りとなられたことが余程悔しいようでして・・」
「俺、あんなオバハンに興味ないから。」
聖良がそう言った時、こちらへと駆けてくる足音が聞こえた。
『失礼いたします、陛下がお呼びです。』
(来たか。)
あのパーティー以来、国王は聖良を何かと口実を作っては呼び出し、その身体を弄ぼうと企んでいたが、今まで聖良は彼の申し出を撥ね除け、自室に籠っていた。
「じゃぁ、俺行くから。」
「お一人で、大丈夫なのですか?」
「俺男だし、何かあればこれがあるし。」
聖良は首に提げている短剣を取り出した。
「行ってらっしゃいませ。」
部屋を出て、中庭へと向かうと、そこには自分を待ちくたびれた国王が不機嫌そうに籐椅子に座っていた。
「来たのか、セーラ。こちらへおいで。」
国王―アルハンはそう言って聖良に手招きした。
「今日は一体、何のご用です?」
「決まっているだろう。お前を抱きたいのだ。」
アルハンは聖良の華奢な手を掴むと自分の膝に彼を座らせ、服の隙間から手を滑り込ませ、聖良の胸を触った。
「すべすべした肌だ。今から夜が待ちきれない。」
聖良は嫌悪の表情を浮かべると、短剣でアルハンの手を突き刺した。
彼はすぐさま聖良を突き飛ばし、痛みに悲鳴を上げた。
「今度触ったら、手だけじゃ済まないぞ。」
聖良はアルハンの手から短剣を抜くと、その刃先を彼の首筋にあてた。
「ふふ、気が強いな。そういうところも気に入っているぞ。」
アルハンはそう言って笑いながら、聖良に微笑んだ。
「今夜、盛大な式を挙げる。その時にまた会おう。」
「お断りだ、誰がお前なんかと。」
「ここの主はわたしだ。お前はわたしの命令に黙って従うのだ。」
アルハンは聖良の手首を捩じり、再び彼の身体を自分の方へと抱き寄せ、彼の頬にキスして中庭から去って行った。
「助平親父め・・」
聖良はアルハンの背中を睨むと、自室へと戻っていった。
「セーラ様、陛下はどうでしたか?」
「どうも何も、あの助平親父、今夜俺と結婚式を挙げるとか言いやがった。」
「今夜ですか?」
リーシャがそう言って目を丸くした。
「何だか嫌な予感がするな。」
聖良は溜息を吐いた。
「セーラ様、陛下から贈り物です。今夜の式に着るようにと。」
リーシャの傍に居た侍女が、長方形の箱を持って聖良の方へと駆け寄って来た。
聖良が開けると、そこには純白の花嫁衣装が入っていた。
(あの親父、本気だな・・)
「父上、お話しがあるのですが。」
「入れ。」
「失礼致します。」
リシャドがそう言ってアルハンの部屋に入ると、アルハンは純白の婚礼衣装に袖を通していた。
「父上、その恰好はどうなさったのですか?」
「リシャド、今夜わしはあのセーラと結婚式を挙げる。」
父親の爆弾発言に、リシャドは絶句した。
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