部屋に戻ったリヒャルトは、マリア皇女を殺害した犯人の事を考えていた。
何故、マリアをあんな回りくどいやり方で殺し、ガンネルトの息子に罪を着せようとしたのか。
“彼”の目的がいまいちわからない。
リヒャルトが溜息を吐いて眉間を揉んだ時、ナイトテーブルの上に置いた携帯がけたたましく鳴った。
「もしもし?」
『リヒャルト、久しぶりね。』
「母上?」
母親が自分の携帯にかけてくることなど滅多にないのに、何故この日に限って。
『あなた、ウィーンに居るんでしょう?』
「はい、そうですが・・」
『実はね、わたくし達もウィーンに居るのよ。それでね、あなたに会わせたい方がいるのよ。』
母親は一方的に見合いの日時と場所を告げると、通話を打ち切った。
(結婚か。)
母親との電話の後、リヒャルトは溜息を吐いてベッドに寝転がった。
今まで結婚など、考えた事もなかった。
生まれつき病弱で、子どもを作ることができない身体である自分は一生独身でいるしかないと思っていた。
それに、今の彼には聖良がいた。
恋人でも人生の伴侶としてではなく、絶対的に忠誠を誓う主として彼を慕い、守って来た。
これからもそんな人生が続くと思っていたのは、どうやら自分だけだったらしい。
(セーラ様・・)
あの日本人記者から渡された封筒をバッグの中から取り出し、何度も読み返しては手あかに塗れた聖良の手紙を、リヒャルトは広げた。
“俺は大丈夫。あんたと再会できる日まで、俺は待っているから。”
短い文章の中に、彼は生きているという希望の光がリヒャルトの胸を灯し続けていた。
その夜、ホテルから少し離れたレストランで、リヒャルトは両親と、花嫁となる見合い相手と食事をした。
「リヒャルト、こちらはイルゼさんよ。」
「初めまして。」
そう言って頬を赤らめ恥じらいながら見合い相手の女性・イルゼはリヒャルトを見た。
「リヒャルトです、どうぞ宜しく。」
社交界デビューして以来身につけてきた作り笑いを浮かべたリヒャルトに、イルゼは嬉しそうに彼に笑みを返した。
食事はとても良かったが、両親やイルゼとの会話はちっとも楽しくはなかった。
病弱で役立たずの自分をわざわざ貰ってくれるという女が現れ、彼女と結婚できるというのに。
本来喜ぶべきことであるのに、リヒャルトは心が満たされないでいた。
部屋に戻ったリヒャルトは、激しい疲労感に襲われてベッドに入った。
目を閉じて夢の住人になると、そこにはいつも聖良の姿があった。
夢の中で、自分は彼を欲望のままに貫き、己の性欲を満たしていた。
そしてそこから目覚めると、下半身の昂りを見ながら己の欲望を思い知らされる。
聖良が失踪して以来、その状態がいつも続いた。
男同士であり、決して結ばれぬ者同士であるというのに、リヒャルトは聖良が恋しくて堪らなかった。
(セーラ様、必ずあなた様をこの手で救い出してみせます。)
リヒャルトは聖良のロザリオに口づけながら、また一日が始まるのを静かに待っていた。
一方、リシェーム王国の後宮では、聖良が悲鳴を上げながらアルハンに組み敷かれる屈辱に耐えていた。
「ああ、お前は何度抱いても足りないな。」
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