リシャドとの甘い夜を過ごした聖良は、彼からプレゼントされた黒真珠のペンダントを首から提げながら、自室へと戻った。
「セーラ様、お帰りなさいませ。」
侍女のサリーシャが主の顔を見るなり、嬉しそうに言った。
「ただいま、サリーシャ。最近身体がだるくて仕方がない。」
聖良はそう言うなり、寝台に寝転がった。
「色々と気疲れいたしますものね。慣れない後宮での生活に加え、あの男には乱暴に抱かれているんですもの・・」
サリーシャはぽつりとそう呟くと、刺繍台に針を刺した。
「それはなんだ?」
刺繍台の上には、優美なアラベスクで彩られていた。
「ああ、これはわたくしの民族に古くから伝わる刺繍ですよ。砂漠の中で暮らすわたくし達は、家畜を管理するだけでは食べていけないので、男達は出稼ぎに、女達は手芸品を売って生活しているのです。わたくしの家も貧しくて、その上子沢山でしたから、わたくしは学校に行くのを諦めて王宮にお仕えする前はあるシークの家でメイドをしておりました。」
「そうなの・・色々と大変だったんだね。俺も以前は警察官をして、毎日忙しく働いていたなぁ。」
聖良はそう言うと、サリーシャは驚いた顔をした。
「まぁ、セーラ様が?」
「皇族っていう自覚がないんだよね、俺。というのも、自分がローゼンシュルツの皇太子だって知ったのが半年前だったから。それに、実の家族の記憶がないし・・」
「そうなんですか・・それは辛いですね。」
「でも、俺には支えてくれる人がいるから、大丈夫。サリーシャもその1人だよ。」
聖良はそう言ってサリーシャの手を握ると、彼女は頬を赤らめて俯いた。
「おやすみなさいませ、セーラ様。」
「おやすみ、サリーシャ。」
侍女が部屋を出て行った後、聖良はゆっくりと目を閉じた。
翌朝、下腹部に痛みを覚えた聖良がベッドから起き上がると、シーツが血で赤く染まっていた。
「サリーシャ!」
「セーラ様、どうなさいましたか?」
「シーツに血が・・」
部屋に入ったサリーシャは、血に染まったシーツを剥がすと、新しいシーツに取り替えた。
「セーラ様、もしかして初潮を迎えられたのではないですか?」
「え、初潮?」
昔学校の保健体育の授業で習ったが、男である自分が初潮を迎えることなんてないだろうと思っていた。
「男でも初潮を迎えることはあるのかな? ないと思うけど・・」
「恐らく、セーラ様は男と女、2つの性をお持ちになられているのですわ。」
「どういうこと?」
サリーシャは、セーラの耳元で何かを囁いた。
「今日は余り無理をなさらないでくださいね。あとリシャド様との営みはほどほどにしておきませんと。」
「わかった・・って、サリーシャ・・」
リシャドとの関係をサリーシャに薄々気づかれていたことを知った聖良は、顔を赤く染めた。
「セーラ様、突然の変化に戸惑われるかもしれませんが、これもあなたが通る道なのです。」
自分より年下のサリーシャは、聖良を優しく諭すような口調でそう告げると、部屋から出て行った。
(俺が、両性具有なんて・・どうして今まで気付かなかったんだろう?)
サリーシャの口から衝撃的な事実を知り、聖良は混乱しながらもまた下腹部の痛みに襲われ低く呻いた。
「セーラ様、どうなさいましたか?」
サリーシャとは違う侍女が部屋に入ってきた。
「さっきから腹が痛くて・・痛み止めの薬があればくれないか?」
「かしこまりました。暫く横になってお待ちくださいな。」
(この痛みはいつまで続くんだろう・・?)
数分寝台に横になっていると、先程の侍女が痛み止めの薬と水を持って部屋に戻って来た。
「ありがとう。」
薬を水で流しこむように飲むと、下腹部の鈍痛は嘘のように消えた。
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