「なぁ英人、もし俺が死んだら泣いてくれる?」
それはある冬の日―2人が恋人同士となって数カ月経った時のことだった。
「何だよ、突然?」
「なぁ、俺が死んだら泣いてくれる?」
そう言って泥酔した鈴は英人を見た。
「泣いてやるよ。」
「本当に?本当に泣いてくれるの?」
「泣くって言ってるだろ、しつこいな!」
「英人、ありがとう~!」
鈴は英人にそう叫んで抱きついた。
あれから何年か経った後、泣きながら最期を看取られたのは英人の方だった。
初めて出来た親友と、恋人。
鈴はその人物を戦で奪われた。
もう何も失いたくない・・今度こそ英人と幸せに・・
「 」
目覚まし時計の音で、高史は目が覚めた。
内容は覚えていないが、とても悲しい夢を見ていた。
顔はわからないが、恋人との楽しい時間と、恋人との辛い別れを過ごした夢。
何故か、福島に来るたびにその夢を見る。
低く唸りながら高史がゆっくりとベッドから起き上がると、枕元に置いていた携帯が鳴りだした。
「はい?」
『高史、起きたか?』
「ええ・・これから支度するところです。」
『そうか。遅れんようにな。』
高史は出張で福島に来ていた。
高史の勤務先の会社は、医療機器を販売する会社で、取引先のひとつである病院が福島県にあった。
ホテルの部屋を出てタクシーで病院へと向かう途中、交差点で1台のマイクロバスを見た。
その中には、華凛が乗っていた。
高史は思わず身を乗り出しそうになった。
華凛は隣の席に座っている少年と楽しげに会話をしていた。
やがて信号は青になり、バスはタクシーより先に発進した。
華凛に会いたいと思っていた時に、彼も福島にいるとは何という偶然なのだろうか・・高史は嬉しさで胸が弾んだ。
取引先を何軒か回り、ホテルに戻った高史は、華凛の携帯にかけた。
『もしもし?』
「もしもし、俺だ。今福島にいるんだ。」
『そうなんですか・・俺は学校の行事でいるんです。』
「そうか・・滞在先は?」
『猪苗代湖周辺にあるキャンプ場です。』
高史は華凛に滞在先のホテルの住所を教え、携帯を切った。
華凛は高史が滞在しているホテルの住所をメモした紙を、そっとバッグの中にしまった。
「電話、誰からだったんだ?」
「ちょっとした友達。」
嬉しさを隠せずに、華凛は照れ臭そうに言った。
やがて彼を乗せたバスは猪苗代湖畔にあるキャンプ場へと到着した。
「じゃぁ、それぞれ班ごとにバンガローに入ってくださぁい!」
初夏の猪苗代湖を眺めながら、華凛はバスから降りてバンガローへと向かった。
その遥か後方で、カメラを構えた男がシャッターを切り、華凛の写真を撮っていた。
やがて男はカメラを首に提げ、バイクに跨りキャンプ場を後にした。
男は福島市内にあるホテルでバイクから降り、ある部屋のドアをノックした。
「お入りください、お待ちしておりましたよ。」
そう言って男を出迎えたのは、高生の秘書である秋本だった。
「写真は撮れましたか?」
「ああ。約束の金は?」
「ご苦労様でした。」
秋本は男に分厚い封筒を差し出した。
「ありがとよ。」
男はニヤリと笑いながら部屋を出て行った。
秋本はパソコンに向かい、男が撮った写真を見た。
「正英華凛・・子どもとはいえ厄介な相手ですね・・早く始末しなければ。」
彼はそう呟いて眼鏡の位置を調整した。
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Last updated
2012.04.15 21:15:36
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