「突然何をおっしゃるのですか、ルチア様?」
レオナルドは、そう言って驚愕の表情を浮かべながらルチアを見た。
「わたしを抱きなさいと言ったのよ、聞こえなかったの?」
ルチアは紫紺の瞳でレオナルドを睨むと、彼に抱きついた。
「本気でそうおっしゃっておられるのですか、ルチア様?」
「冗談でわたしがこんな事言うと思う?」
レオナルドは溜息を吐いた。
「ルチア様、申し訳ありませんが、わたしには出来ません・・」
「そう、ならいいわ。」
ルチアはそう言うと、ドレスの胸紐を解いた。
シュルリという音がして、真紅の胸紐が大理石の床に落ちた。
「ルチア様、おやめください!」
レオナルドは慌ててルチアを止めようとしたが、その手を彼女は邪険に払いのけ、ドレスを脱いだ。
「本当に、あなた様は・・」
「わたしは今夜を、記念に残る夜にしたいの。」
下着姿となったルチアはそう言うと、熱を孕んだ紫紺の瞳でレオナルドを見つめた。
(ルチア様・・それほどまでにわたしを・・)
レオナルドは自分の前に立っているルチアが、それほどまでに自分に対して想いを寄せていることに初めて気づいた。
ここで彼女を抱くべきなのだろうか。
頭ではいけないと警告を発しつつも、レオナルドはルチアの唇を奪った。
「ん・・」
レオナルドはルチアの口腔内を舌で犯し始めた。
ルチアはそれに応じるかのように、己の舌をレオナルドの舌に絡めた。
そっとレオナルドがルチアから離れると、二人の唾液が糸を引いた。
「ルチア様・・」
レオナルドはゆっくりとルチアのコルセットの紐を解き、ソファにその身体を横たえた。
彼はルチアの首筋を強く吸いながら、彼女の身体をベッドに横たえた。
「あ・・」
レオナルドが首筋を強く吸う感触がして、ルチアはびくりと快感に身を震わせた。
レオナルドはルチアのコルセットの裾を捲った。
そこには、驚愕の真実が隠されていた。
「レオナルド?」
突然レオナルドが離れて行くのを感じたルチアがゆっくりとベッドから起き上がると、そこには俯いている彼の姿があった。
「ねぇ、どうしたの?」
「ルチア様・・あなた様は男だったんですね。」
「え?」
ルチアは、レオナルドが一瞬何を言っているのかが解らなかった。
(わたしが男?)
この十五年間、自分は女として生きてきたし、自分が女だと思っていた。
ルチアは恐る恐るコルセットの裾を捲り上げ、その下を見ると、そこには男性のものがあった。
目を擦ってもう一度見たが、それは確かにルチアの下半身にあった。
「レオナルド、どうなっているの? わたしにはどうして、こんなものがついているの!?」
「それはわたしと同じ男だからです、ルチア様。」
「そんな・・わたしは今まで女として生きてきたのに! どうして・・」
「ルチア様、落ち着いてください!」
「嫌ぁ、わたしは化け物よぉ!」
ルチアは真実を知り、激しく動揺した。
そんな彼女を、レオナルドは抱き締めた。
「ルチア様、今宵は一晩中、わたしが傍におります。だから安心してお休みください。」
「レオナルド・・助けて・・」
ルチアがそう言った途端、彼女は胸を押さえて蹲った。
「ルチア様、ルチア様!?」
レオナルドはルチアを再びベッドに寝かせると、彼女の上にシーツを掛けた。
「レオナルド・・気つけ薬が傍の棚の・・一番目の引き出しに・・」
レオナルドはベッドの近くにある小さい棚の一番目の引き出しを開け、気つけ薬をルチアに口移しで飲ませた。
「大丈夫ですか?」
「ええ・・少し楽になったわ・・ありがとう・・」
「お召し替えをしなければ。そんな格好では風邪をひきます。」
「ええ、そうね・・そうするわ・・」
ルチアはベッドから起き上がると、クローゼットの方へとふらふらと歩いていった。
(ルチア様・・何という痛々しいお姿なのだろう!)
愛する者とまさに結ばれようとしているその時に、残酷な真実がルチアに突き付けられるとは、神は意地悪だ。
「レオナルド、お父様達には内緒にしていて、今夜の事は・・」
「しかし・・」
「わたし、今まで二人に心配かけてきたでしょう? もうこれ以上わたしの事で心配して欲しくないの。」
女だと思い込み、今まで生きてきたというのに、男であるということを知り動揺しているというのに、ルチアは自分の事よりも両親の事を気遣い、心配していた。
「わかりました。陛下と王妃様には何も申し上げません。」
「ありがとう・・」
ルチアはベッドに倒れ込むと、ゆっくりと目を閉じた。
「ルチア様・・」
ルチアがすやすやと寝息を立てて眠るのを隣で聞きながら、レオナルドはそっと彼女の艶やかな黒髪を梳いた。
今夜自分が見たことは全て忘れてしまおう。
たとえそれが、残酷な真実だとしても。
翌朝、ルチアが目を覚ますと、隣のベッドにはレオナルドが眠っていた。
彼女はにっこりと笑うと、レオナルドの金髪を撫でてベッドから出た。
「ルチア様、おはようございます。」
「おはよう。」
ルチア付の侍女が部屋に入ってきて、ベッドの中で眠っているレオナルドを見るなり頬を赤く染めた。
「安心して、彼とはやましい事は一切していないわ。」
「そ、そうですか・・では、お召し替えを。」
「ええ、お願い。」
着替えを終えたルチアは、朝食の後で母に真実を聞こうと思った。
「お母様、お話しがあるのだけれど、よろしいかしら?」
「なぁにルチア?」
朝食後、ルチアは母を庭園に呼び出した。
「昨夜、わたし自分の身体を見てしまったの・・そしたら・・」
「ルチア・・」
母はルチアが何を言おうとしているのかが解っているかのようで、急に美しい顔をこわばらせたかと思うと、涙を流した。
「ああルチア、ごめんなさい。お母様が悪かったわ・・」
ルチアは母の口から、更なる真実を知ることになった。
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