「まだ撃つなよ!」
徐々に膨らみ始め、白鳥宮へと行進する市民達に銃剣を向ける部下たちを、連隊長・レオンはそう言って制した。
「まだだ、あいつらが我々の近くに来るまで、誰も撃つな。」
「わかりました、隊長。」
一歩、二歩、三歩・・市民達の足が徐々に連隊へと近づいていく。
「いまだ、撃ち方用意!」
レオンの掛け声で、兵士たちは一斉に弾を装填した。
「撃て!」
行進していた市民達は、軍隊が銃剣で自分たちを狙っていることに気づき、慌てて背を向けて逃げ出そうとしたが、遅かった。
一斉に数百もの銃剣が火を噴き、無抵抗の市民達に銃弾の雨が降り注いだ。
「次、撃て!」
市民達の何人かは、諦めずに王宮へと行進を続けたが、軍隊に阻まれ物言わぬ骸となった。
「一体これはどういうことだ!」
「すべてはわが国の為ですよ、陛下。このまま暴徒たちをのさばらせておくおつもりですか?」
ディミトリはそう言って金色に輝いた瞳でアルフリートを見た。
「だが、わたしは市民への発砲命令は下しておらんぞ!暴徒を鎮圧せよと命じたまでのこと!」
「暴徒たちを鎮圧するには、武力鎮圧以外、方法がございません。さあ陛下、このような場に長居は無用です。」
ディミトリは真一文字に口を結び、広場の惨状をバルコニーから見つめているアルフリートの背中を押すと、彼を閣議室へと連れて行った。
「父上。」
「お前は・・」
閣議室に入ったアルフリートが見たものは、青と白のドレスを纏い、王笏(おうしゃく)を持ったミカエルの姿だった。
「お久しぶりです、陛下・・いえ、父上とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
ミカエルはアルフリートにそう言うと、口端を上げて嫣然(えんぜん)とした笑みを浮かべた。
「何ですって、軍隊が市民に発砲した!?」
「はい、奥様。これをご覧ください。」
アリエステ侯爵夫人は、パソコンに映し出された映像を観てショックを受けた。
そこには、無抵抗の市民達を無差別に発砲する軍隊の姿が映っていた。
「これは一体どういうことだ!?」
「セーラ様、もはや暴動を止めることはできません。すぐさま安全な場所に避難してください!」
「だが・・」
聖良が慌てて荷物を纏めていると、階下から突然悲鳴が聞こえた。
「セーラ様、奥様が・・」
「どうしたんだ?」
聖良たちが階下に降りると、メイドが泣きながら彼らの方へと駆け寄ってきた。
「先ほど暴徒達が家の中に侵入し、奥様が刺されました!」
「リヒャルト、彼女の手当てを。俺は医者を呼ぶ。」
「わかりました!」
夫人の部屋へと入っていくリヒャルトを確認した聖良は、携帯で救急車を呼ぼうとした時、まるで地の底が崩れ落ちるかのような轟音が外から鳴り響いた。
「王家の犬を殺せ!」
「全員火炙りにしろ!」
「そら、燃やせ!」
興奮した暴徒達によって投げられた火炎瓶がリビングの飾り窓を突き破り、深紅の絨毯を舐めるかのように炎が辺り全体に広がった。
「セーラ様、早くお逃げください!」
「リヒャルト、お前を置いてはいけない!」
聖良がリヒャルトと夫人の部屋へと向かおうとした時、炎が彼の行く手を阻んだ。
「リヒャルト、返事をしろ、リヒャルト!」
炎を避けるようにして聖良が夫人の部屋のドアノブを掴もうとすると、それは溶けた鉄のように熱かった。
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