「今までどうしていたんだ?フリーゼに捕まってたんじゃないのか?」
「ええ。ですが、突然少女が現れてわたしを逃がしてくれました。」
「少女が?」
「白いスカーフを頭に巻き、緑色の美しい民族衣装を着た、エメラルドの瞳を持つ少女でした。」
「あんた、そりゃぁ“緑のナチア”だよ!」
傍らで二人の会話を聞いていた老人がそう言ってリヒャルトを見た。
「“緑のナチア”?」
「妖精の一種で、幸福を運んでくれる使者なんですよ。彼女が現れる時は飢饉が止まったり、戦争に勝ったりするんです。」
「そうか。彼女がお前の元に現れたということは、まだ望みはあるということだな。」
「ええ、そうですね・・」
リヒャルトがそう言って笑ったとき、激しい揺れが彼らを襲った。
「一体何だ!?」
「わたしが見て参ります!」
リヒャルトが病院の外に出ると、そこではバリケード越しに住民と王国軍が米軍を迎え撃っていた。
だが敵の勢力差で圧倒され、住民達は次々と敵の銃弾に倒れていった。
「ここは危険だ、裏道に避難しろ!」
「皆さん、こちらです!」
看護師達は王国軍を安全な裏道へと誘導すると、負傷者の手当てを始めた。
次から次へと運ばれてくる負傷者の数は、減るどころか時間が経つにつれ増えていくばかりだった。
「セーラ様、そこの薬を取ってください!」
「わかった!」
やがて薬も包帯も底をつき、聖良はドレスの裾を破いて包帯代わりにして負傷者の手当てに当たった。
漸く彼らが一息つけたのは、日没前のことだった。
「セーラ様、お疲れでしょう。」
「何の、これくらいのことで倒れるなんて・・」
リヒャルトの前でそう強がって見せた聖良だったが、立ち上がった拍子に激しい眩暈に襲われて倒れそうになった。
「まったく、言わんこっちゃない。ここはわたしがしますから、あなた様はあちらで少し休んでください。」
「すまないな・・」
倒れるようにしてマットレスの上に横たわった聖良は、自然と疲労が襲ってきてゆっくりと目を閉じた。
「セーラ様、起きてください。」
「どうした、リヒャルト?また米軍が来たのか?」
「いえ、そうではありません。」
聖良が気だるそうにマットレスから体を起こすと、彼の目の前には救護院で住民達を殺害しようとしていた治安部隊が立っていた。
「お前達、また住民たちを殺しに来たのか?」
聖良は隠し持っていた短剣の感触を確かめると、治安部隊のリーダーを睨んだ。
「いいえ、そうではありません、セーラ様。」
そう言うとリーダーは、聖良の前で跪いた。
「あなた様とともに、戦わせてください。わたくしを、あなた様の騎士に加えさせてください。」
「その言葉を、信じろと?」
聖良は冷たい眼差しをリーダーに向けると、彼は跪いたまま、聖良を見た。
その目は、嘘を吐いていなかった。
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