あの戦いから、1年半の歳月が経った。
街には未だあちこちに弾痕が残るものの、人々の生活は戦いとは変わらず市場は活気に満ちていた。
そんな中、王宮では聖良は夜着から美しいドレスへと着替えている最中だった。
「セーラ様、ティアラはどうなさいますか?」
「いや、このサファイアのネックレスだけでいい。」
「かしこまりました。」
鏡に映る自分の顔を見て、聖良は否応なしにミカエルのことを思い出してしまった。
1年半前のあの雨の日、濁流へと身を投じたミカエルの遺体は発見できなかった。
彼の生死は依然わからず、聖良は時折陰鬱(いんうつ)な気分に襲われた。
「セーラ様、どうかなさいました?ご気分でも悪いのですか?」
「いや・・」
「ミカエル様のことを、考えていらしたのですか?」
聖良は思わず女官の顔を見てしまった。
「ああ。長い間会っていなかったのに・・彼から色々と酷い目に遭わされたのに、どうしても彼を憎めない。実の兄弟だからかな?」
「そうでしょうとも。さぁ、参りましょうか。」
「ああ・・」
二人の女官に支えられながら、聖良は部屋から出て行った。
一方、王宮前広場では、バルコニーに国王一家がいつ登場するのだろうかと国民達が首を長くして待っていた。
幾度も内戦で傷ついたこの王国は、22年もの時を経て復興への道を歩み始めていた。
彼らにとって王室は国の象徴であり、共に自分たちと銃を手に取り戦った皇太子は“希望の星”であった。
「あ、皇太子様だ!」
「本当だ、出てきたぞ!」
彼らが顔を上げると、国王一家がバルコニーへと出てきた。
美しい宝石の勲章を幾枝にも肩に下げたアルフリート国王と、濃紺の落ち着いた色合いのドレスを纏ったアンジェリカ皇妃が国民達に向かって手を振ると、彼らは一斉に“王国万歳”と叫んだ。
そして、聖良が登場するなり広場は歓声に包まれた。
赤を基調とした美しいドレスを纏い、サファイアのネックレスを提げた聖良の姿は、威厳に満ちていた。
「王国万歳!」
「セーラ皇太子、万歳!」
国民達は旗を振り、聖良たちに向かって口々にそう叫んだ。
聖良は幸福に満ちた笑顔を浮かべながら、彼らに向かって手を振り続けた。
「セーラ様、もうすぐ成田空港に着陸いたしますよ。」
「そうか。日本に帰るのは久しぶりだな。」
「ええ。」
聖良は王国専用機の窓から第二の祖国を見た。
『ただいま、ローゼンシュルツ王国皇太子・セーラ=タチバナ様御一行がご到着されました。』
ラーメン屋で聖良の来日中継を見ていた山下知幸は、聖良の顔がアップになった途端溜息を吐いた。
「すっかり雲の上の人になっちゃったなぁ・・」
彼がそう呟いた瞬間、携帯が鳴った。
「もしもし署長?え、俺がセーラ様の警護を!?はい、すぐ行きます!」
半分食べかけのラーメンを残し、和幸はラーメン屋を飛び出していった。
―FIN―
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