「申し訳ありませんが、あなたを外へお通しする訳には参りません。」
「そう。なら力ずくで出て行くしかないわね。」
美津はそう言うと、メイドを突き飛ばした。
彼女が小さな悲鳴を上げたのを聞くと、美津は寝室から出て行った。
いつの間にか連れ去られてたので、この邸がどんな構造なのかわからず、美津は出口を求めて長い廊下を彷徨っていた。
(どこ?出口はどこなの?わたしは早く四郎の元に帰らないといけないのに・・)
焦れば焦るほど、美津は邸の奥へと迷い込んでいってしまった。
まるでこの邸は迷路のようだ―美津がそう思いながらドアを開けると、そこには別世界が広がっていた。
華やかなドレスに着飾った貴婦人たちが、笑いさざめきながらジロジロと自分を見ていた。
それは燕尾服に身を包んでいる男たちも同じだった。
まるで珍獣のような目で、美津を見ていた。
(何なの、この人たち?どうしてわたしを見ているの?)
「美津様、見つけましたよ。」
背後から腕を掴まれ、美津が振り向くと、そこにはあのメイドが立っていた。
「何するの、放して!」
「さぁ、お部屋にお戻りください。」
「いやよ、わたしはここから出るの!出て四郎に会うの!」
メイドの腕を振り切ろうとした美津だったが、儚げなみかけによらず、彼女の力は強かった。
「放してって言ってるでしょう!」
「お静かになされませ、美津様。お客様に聞こえてしまいます。」
「お客様って、さっきの部屋に居た人たち?」
「そうですよ。さぁ美津様、お召し替えを。」
その後はメイドに言われるがままに美津が入った部屋は、化粧室だった。
「そちらへお座りくださいませ。」
「わかったわよ。」
彼女のいうとおりにしたほうがいいと思った美津は、そう言って化粧台の前に腰を下ろした。
メイドが手を鳴らすと、部屋に数人のメイド達が入ってきた。
「彼女達があなた様のお世話をいたします。」
「一体わたしに何をするの?」
「あなた様をお客様の前に立派なお姿にさせる為です。少し辛抱してくださいませ。」
「そう、できるだけ早く済ませてね。」
「わかりました。」
ちらりと彼女が他のメイドたちに目配せすると、彼女達は早速動いた。
「髪を梳かせていただきます。」
「痛いわね、もっと優しくやってよ!」
「す、すいません・・」
慣れない環境で突然見知らぬ者に髪を触られ、美津はついメイドに声を荒げてしまった。
「いいわよ。さっさと済ませて頂戴、急いでいるんだから。」
メイド達に髪を結い上げている間、美津は仏頂面を浮かべていた。
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Last updated
2012.10.11 14:15:09
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