鬼神の言葉を受けた美津は一瞬きょとんとしたが、すぐさま怒りで顔を赤くさせた。
「何それ、どういう意味よ!」
「そなたがはなからわしに心を開くなど、考えてもおらぬわ。」
「じゃぁ、どういうつもりでここにわたしを閉じ込めるの?」
「それは、この国の未来を占ってほしいと思うておるからじゃ。」
「はぁ?」
鬼神の言葉を受け、美津は思わず言葉が裏返ってしまった。
「一体何を言っているの、あなた?わたしは占い師でもなんでもないわ!そんなわたしに、一体どうやってこの国の未来を占えと?」
「そなたはまだ己の力を自覚しておらぬな。」
鬼神は美津を馬鹿にしたような笑みを浮かべると、すっと彼女に一歩近づき、耳元でこう彼女に囁いた。
「後で逃げる算段をつけておるゆえ、適当にごまかせ。」
「えっ」
美津が思わず鬼神の顔を見つめると、彼はふっと口端をあげて笑った。
「皆様、こちらが未来を予言できる少女・ミツです。」
突然鬼神に背中を押され、美津は見知らぬ外国人客たちの前に立った。
「は、はじめまして・・ミツです。」
「まぁ、可愛らしいこと。あなたが未来を占ってくれるのね?」
大きな身体を揺らしながら、ロシア大使夫人がそう言って美津の肩を叩いた。
「ええ・・」
一体どうすればこの場を切り抜けられるのか、美津は考えていた。
(適当にごかませと彼は言ったわ。でも、その方法が・・)
「美津様、こちらへ。」
大使夫人らとの挨拶を終えた美津が所在なさげにウロウロとしていると、自分の部屋に入ってきたメイドが彼女に手招きした。
「何かしら?」
「これを。」
メイドがそう美津に差し出したのは、革張りの表紙がしてある一冊の本だった。
「ここには諸外国の情勢が書かれております。それを参考にして、彼らに適当な予言をなさってください。」
「そんなことをして、大丈夫かしら?」
「旦那様は一時のわがままであなたをここに拉致したことを後悔していらっしゃるのです。どうか旦那様のお気持ちを無下になされませんよう。」
「わ、わかったわ・・」
「ではわたくしはこれで・・」
メイドはそう言うと、すっと大広間から出て行った。
その後美津は渡された本を頼りに諸外国の要人達へ予言をした後、自分の部屋へと戻った。
「美津様、おられますか?」
「ええ、居るわ。」
「失礼いたします。」
ドアが開き、メイドが何かを抱えながら部屋に入ってきた。
「これにお着替えなさいませ。」
美津はベッドに置かれた男物の服を見て、鬼神が彼女をここから逃がしてくれるのだとわかった。
「さぁ、お早く!」
「わかったわ、着替えを手伝ってくれる?」
「かしこまりました。」
数分後、着替えを終えた美津は髪を後ろで一括りに結び、馬に跨ると邸の裏口から外へと飛び出していった。
(待っててね、四郎!必ずあなたの元へ戻るから!)
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Last updated
2012.10.11 21:51:31
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