あいりは、真紀とともに洛中を歩いていた。
「すいまへん、うちが頼んでしもうたさかい・・」
「気にするな。たまには外に出るのは気晴らしになる。」
剣術の稽古の後、主から休みを貰ったあいりは真紀とともに宿の近くにある甘味処に来ていた。
店の中は女性客ばかりで、どうしても男の真紀は悪目立ちしてしまう。
「甘い物はお嫌いどすか?」
「いや、少し苦手だ。」
「へぇ、そうどすか。それよりも宮下様はおいくつどすか?」
「17だ。そなたは?」
「うちは15どす。これから宮下様を、“兄上”とお呼びしてもよろしおすか?」
「何故俺が兄上なのだ?」
「年上やし。」
「ふん、好きにしろ。」
真紀は何処か嬉しそうな顔をしながら、みたらし団子を頬張った。
店から出ると、通りで幼女がビードロを鳴らしながら歩いていた。
通りには魚売りの男や花売りの娘達が行き交い賑わいを見せていた。
何の変哲もない、平和な日常だった。
「平和どすなぁ。」
「ああ。」
真紀とともに雑踏の中を歩いていると、あいりは向こうの角から浅葱色の羽織を纏った集団がやって来るのが見えたので、思わず目を伏せた。
「どうした?」
「いえ・・」
そうあいりが言った時、激しい剣戟の音が響き渡った。
「斬り合いや!」
「早う逃げ!」
人々は悲鳴を上げながら逃げ惑う中、新選組一番隊組長・沖田総司は次々と相手を斬り伏せた。
「ふん、大した事ないね。」
翡翠の瞳で冷たく敵を睨み付けると、止めを刺した。
その時、彼の前にビードロを吹いていた幼女が歩いて来た。
「おのれぇ!」
まだ息があった浪士の一人が、総司に向かって刀を振り翳そうとしていた。
「危ない!」
真紀はとっさに浪士と幼女との間に割って入り、己の身体を盾にした。
総司の刀が一閃し、真紀の背を切り裂いた。
「運が悪かったね、あんた。ここで死んでね?」
口端を歪ませて笑うと、総司は地面に倒れ伏している真紀の首筋に向かって刃を振り下ろそうとした。
「壬生狼は早う京から去ね!」
あいりは小石を掴むと、それを総司の顔に向かって投げつけた。
総司が端正な顔を怒りに歪ませ、あいりを睨みつけた時、背後から黒髪をなびかせた男が走って来た。
「総司、一体これぁ何の騒ぎだ!?」
「土方さん、いいところを邪魔しないでくださいよ。」
「ふざけんな!」
歳三が総司を睨み付けると、彼は舌打ちしてそこから去っていった。
「また会った時は、女子でも容赦しないからね。」
擦れ違いざまに総司はあいりを睨み付けると、部下を率いて彼女の傍を通り過ぎていった。
「う・・」
「兄上、ご無事どすか!?」
「大事ない・・ただのかすり傷だ。」
そう言った真紀の額からは脂汗が滲み出ていた。
「誰か医者呼んで来ておくれやす!」
真紀は戸板に載せられ、近くの町医者の元へと運ばれて一命を取り留めた。
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