「近藤さん、お帰りなさい!」
「おお総司、ただいま。」
勇の姿が見えるなり抱きついて来た総司を、彼の隣で歳三はじろりと睨みつけた。
「総司、よさねぇか。他の隊士達に示しがつかねぇだろう?」
「はいはい、わかりましたよ。あれ、近藤さんそっちの人は?」
総司の視線が、勇から伊東へと移った。
「今回入隊される伊東甲子太郎殿だ。伊東さん、これがうちの新選組一番隊組長の、総司です。俺の試衛館の師範代も務めております。」
「ほう、君が近藤君の愛弟子か。」
「近藤君?」
総司の翡翠の双眸が、剣呑な光を宿した。
「近藤さん、ここじゃ何だから色々と後で話そうか?」
「ああ、そうだな。」
気を利かした歳三は、そう言うと総司の手を掴んで中へと入っていった。
「あの人、一体何様のつもりなの?馴れ馴れしく近藤さんを呼ぶだなんて・・」
「俺だって気に食わねぇさ。だがな、こんなところで争いを起こしても何もなんぇねよ、堪えてくれねぇか。」
「わかりましたよ。土方さんだって、あの人の事気に食わないんでしょう?」
「ああ。」
歳三は伊東を新選組に入隊したのは間違いではないかと思い始めるようになっていた。
そしてその思いは、日頃強くなっていった。
「わたしを新選組参謀に取り立てていただき、ありがとうございます。」
伊東の歓迎の宴が島原で開かれ、彼は酒を飲んで少し赤くなった頬を勇に向けるとそう言って彼に微笑んだ。
元々美しい顔立ちをした彼は、笑うとまるで天女のように美しく見えた。
「いやぁ、わたしとしては、伊東さんの力を是非お借りしたくて・・」
「それは頼もしい事です。」
盛りあがる二人の傍らで、歳三はいかにも面白くないような顔をしていた。
「何あれ、近藤さんに馴れ馴れしくしちゃってさ。」
「総司・・」
「一体何様のつもりなんだろ、あの人?しかも参謀だなんて、山南さんの立場がないじゃない。」
「総司、わたしは大丈夫だからやめなさい、そんなことを言うのは。」
山南敬助はそう言って総司を窘(たしな)めると、歳三の前に腰を下ろした。
「うかない顔だね、土方君。」
「ああ。それよりも山南さん、本当にいいのか?」
「別にわたしは地位などに固執したりはしないよ。それよりもそんな仏頂面じゃ、折角の宴が台無しになるだろう?」
「わかったよ。」
普段意見が合わず対立している山南と歳三だったが、試衛館の貧乏時代に苦楽を共にした仲なので、互いの事を認め合っていた。
「歳、どうしたんだ?機嫌が悪そうだな?」
「何でもねぇよ。」
局長室に入った歳三は、そう言って勇にそっぽを向いて部屋から出ようとした時、彼に抱き締められた。
「何だよ、急に・・」
「お前が欲しい。」
勇はそう言うと、歳三の唇を荒々しく塞いだ。
「んん!」
息が出来ぬ程の激しい口付けに、歳三は腰砕けになりそうになった。
「土方君、居るかい?」
その時、廊下から伊東の声が聞こえ、二人は慌てて離れた。
「伊東さん、どうしたんです?」
「いえ、今後の隊の方針についてお話があって。」
「そうですか・・」
勇はちらりと歳三を見たが、彼は部屋から出て行った後だった。
にほんブログ村