「珍しいなぁ、あんたが溜息吐くやなんて。」
「仁錫(イソク)のことが心配なんです・・今彼が何処に居るのか、わからなくて・・」
椰娜(ユナ)がそう言って溜息を吐くと、志乃はそっと彼の肩に手を置いた。
「あの子は心配ない、きっと生きてるわ。だからもうお休み。」
「へぇ・・おやすみなさい、おかあさん。」
志乃の言葉に少し気が楽になった椰娜は、自分の部屋へと戻った。
「あの子の手前、ああ言うたけど、この先どないしよう・・」
縁側で一人、志乃はそう呟きながら自分の部屋へと引き上げていった。
「食事だ。」
「要らない。」
一方、敵に囚われた仁錫は部屋に入ってきた男に食事を出されたが、毒が入っているかもしれないと疑い手をつけなかった。
「頑固な奴だな、飢え死にしても知らんぞ。」
「放っておけ。お前達にとって俺が死んだほうが好都合だろう?」
傷口に痛みが走り、仁錫は顔を顰めながらそう言って男を睨むと、彼は大げさな溜息を吐いた。
「生憎だが、こっちはあんたに死なれちゃ困るんでね。ちゃんと食事を摂っておかないと後で困るのはあんただぜ?」
「ふん・・」
男の言い方がいちいち癪に障り、これ以上彼と言い争いたくないので、仁錫は折れて箸を手に取った。
「毒は入っていなかっただろ?」
「そうだな。食事以外にでも入れられる毒は沢山ある。言っておくが、俺はあんた達を信用していない。」
「わかってるよ。じゃぁな。」
男は仁錫が監禁されている部屋を出て行くと、廊下を歩き始めた。
壁紙には金箔を豪勢に使った一流品を使い、ところどころに西洋の鎧などが飾られており、この屋敷の持ち主がいかにも西洋被れだということが見てわかる。
「ご主人様、失礼いたします。」
「入れ。」
男が部屋に入ると、この屋敷の主である青年―西岡悠馬はチンツ張りの長いすに身を横たえながら洋書を読んでいた。
「一体何の用だ?」
「あの少年に食事を運びました。彼はまだ警戒しております。」
「そうか・・確かに、いきなり闇討ちされて拉致されたのだから、無理はない。」
「彼をどうなさるおつもりなのですか?」
「そんな事を、お前に教える必要はない。ただお前は黙ってわたしの命令に従っていろ。」
悠馬は読みかけの洋書を閉じると、そう言って男を睨んだ。
「は・・」
「支度をしろ、少し出かけてくる。あと、彼の服も用意しておけ。」
「承知しました。」
男はそう言うと、悠馬の部屋から出て行った。
(場所が判らないんじゃ、姫様と連絡が取れない・・一体どうすれば・・)
仁錫がどう椰娜と連絡を取ろうかと思っていると、ドアがまた叩かれた。
「どうぞ。」
「俺だ。」
「またあんたか。今度は何の用だ?」
蒼い双眸で仁錫がそう言って男を睨むと、彼は包みをベッドに投げた。
「これに着替えろ。ご主人様がお前との外出を所望している。」
「ふん・・」
仁錫が包みを開くと、そこには薔薇色のドレスが入っていた。
「失礼いたします。」
ドアが開き、一人のメイドが部屋に入ってきた。
「お召し替えを手伝わせていただきます。」
「・・わかった。」
仏頂面を浮かべながら、仁錫はメイドにされるがままになっていた。
「旦那様、お支度が出来ました。」
「そうか。」
悠馬はそう言うと、洋書から顔を上げた。
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Last updated
2013.09.04 08:40:43
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