『マッケンジー大尉、お久しぶりです。』
『誰かと思ったら、ユウじゃないか!久しぶりだな。』
貴婦人達と談笑していた男は、悠馬の方へと向き直るなり、嬉しそうにそう言うと彼の方へと駆け寄った。
『大尉、暫く僕達だけで話がしたいので・・』
『ああ、わかった。済まないが君達、席を外してくれるかな?』
マッケンジー大尉がそう言うと、貴婦人達は憮然とした表情を浮かべて次々と部屋から出て行った。
『これでいいかな?』
『ええ。では大尉、こちらの方は・・』
『紹介されなくてもわかってるよ。この子が、わたしの息子か?』
『仁錫(イソク)といいます。』
仁錫は長年生き別れた父親を前にして、緊張のあまり一言も発する事ができなかった。
その様子を見たマッケンジー大尉はおもむろに仁錫に近づくと、彼を力強く抱き締めた。
『会いたかった、イソク。今まで放っておいて済まなかった!』
『父上・・』
マッケンジー大尉―実の父親に初めて抱き締められ、仁錫は自然と涙を流していた。
『これからどうするんだ?わたしとともに来るのか?』
『そうしたいのは山々ですが、その前に一度会っておきたい人が居ます。』
仁錫はそう言うと、椰娜(ユナ)のことを思い出した。
(姫様、もうすぐあなた様に会いに行きますから、待っていてください。)
「本当に怪我の具合は大丈夫なのかい?」
「ええ。」
暴漢に襲われ、数ヶ月間の入院生活を終えた椰娜は日本に帰る事になった。
「まだ本調子じゃないんだから、無理するんじゃないよ。」
「わかりました、ベクニョ様。お元気で。」
「ああ。」
船に乗り込む前、ベクニョと抱擁を交わした椰娜は、ゆっくりと船へと乗り込んでいった。
「元気でね~!」
「しっかりやるのよ~!」
港でベクニョ達が手を振っているのを見て、涙を堪えながら椰娜は振りかえした。
(ベクニョ様、みんな・・元気で!)
日本へと戻った椰娜は、「石鈴」で舞妓としての修行を積む日々を再び送るようになった。
そんな中、志乃の部屋に呼び出された椰娜は、そこで衿替えをしないかと彼女から言われた。
「衿替えて・・うちはまだ舞妓となってまだ1年目どす。早過ぎやおへんか、おかあさん?」
「うちもそう思うたけど、あんたは男や。髭が生えてくる前に、引退しよし。」
「引退て・・そらいつかはするやろうと思うてますけど・・」
「まぁ、この話はじっくりと考えてな。」
「へぇ、おかあさん・・」
志乃の部屋から出た椰娜は、深い溜息を吐いた。
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