『ねぇアナスターシャ、今度うちで園遊会があるのよ。妹さんも誘ってみたら?』
観劇の帰り、アナスターシャは友人からそう言われて、すぐに引き受けた。
『週末に園遊会ですか?』
『ええ。あなたに来てほしいって。』
『でも、何を着て行けばいいんでしょう?』
『大丈夫、そんなに気張らなくてもいいわ。何だったら仕立て屋を呼びましょうか?』
『そうしてくださると助かるのですけれど・・ひとつ問題が?』
仕立て屋を呼ぶとなると、自分が男であることが仕立屋にばれてしまう。
それを周囲には知られたくなかった椰娜の気持ちを察したのか、アナスターシャはこう言って笑った。
『大丈夫よ、わたしが贔屓にしている仕立て屋は口が堅い方だから。』
数分後、アナスターシャが贔屓にしている仕立屋がやって来た。
『あなたには寒色系のドレスが似合うでしょう。ピンクも似合うと思います。』
『そうですか。』
『この生地などは如何です?ヴェネツィアンレースを襟元に付けるとエレガンスな仕上がりになりますよ。』
仕立て屋の口車に乗せられた椰娜は、仕立て屋に数着のドレスを頼んでしまった。
『どうしましょうお姉様、代金が・・』
『それはわたしが全部払うわ。ねぇあなた、今週末に新しいドレスを着たいから、全て一週間以内に仕上げてくださらない?お礼は弾むから。』
アナスターシャはそう言うと、金貨の袋を仕立て屋に握らせた。
『はい、お客様のお望み通りに。』
『では、ドレスの仕上がりを楽しみにしているわ。』
仕立て屋が去った後、椰娜は不安そうにアナスターシャを見た。
『本当に、仕上げてくださるんでしょうか?』
『大丈夫よ、あの人は約束を守る方だから。』
一週間後、椰娜とアナスターシャの元にあの仕立て屋がやって来た。
『お約束の品をお持ちいたしました。』
『そう。じゃぁ見せて頂戴。』
『かしこまりました。』
彼の弟子達が完成したドレスを二人に見せると、ドレスはどれも最高の出来であった。
『ありがとう。あなたの弟子達は優秀ね。』
『またの機会がありましたら、是非わたしに。』
『わかったわ。』
仕立て屋が仕上げたドレスを、早速椰娜は試着してみた。
『やっぱりあなたに似合うわねぇ。このドレスで園遊会に行ってみたら?』
『いいんでしょうか?少し派手すぎやしません?』
『少しくらい派手な方がいいのよ。』
その日の週末、椰娜はアナスターシャの友人宅で開かれる園遊会に出席した。
『アナスターシャ、待っていたわ。そちらが、あなたの妹さんね?』
アナスターシャの友人・マリヤがそう言って椰娜を見た。
『初めまして、ユナです。』
『ようこそ、ユナ。楽しんでいってね。』
椰娜はシャンパングラスをボーイから受け取りながら、園遊会で他の貴族達と知り合い、彼らと雑談を交わした。
『楽しかった?』
『ええ。皆さん素敵な方達ばかりでした。それにわたしに親切にして下さったし・・』
『いい、何事もはじめが肝心よ。』
アナスターシャはそう言うと、椰娜に社交界の心得を教えた。
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Last updated
2013.09.04 10:02:30
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