「本当に、この場所なのか?」
「ええ、間違いありません。」
アレクセイから渡されたメモに書かれた住所へとステファニーとエドガーが向かうと、そこはセーヌ川に近い貧民街だった。
「もしかして、アレクセイに騙されたんじゃ・・」
「あの方は、嘘を吐くような方では・・」
「しっ、黙って!」
突然エドガーが自分の口を塞いだので、ステファニーはムッとした表情で彼を睨んだ。
「一体何が・・」
「あそこの家から、人の気配がします。」
エドガーはそう言うと、そのままステファニーを連れて路地裏へと身を隠した。
すると、一軒の家から数人の男達が出て来た。
『おい、あいつらはまだ来ないのか?』
『どうせ怖気づいたんじゃねぇの?』
『いや・・』
ステファニーか路地裏から少し顔を覗かせると、そこには褐色の肌をした数人の男達が誰かを待っているようだった。
「エドガー様、ステファニー様。」
背後から声が聞こえ、ステファニーが振り向くと、そこには黒い外套を纏ったアレクセイが立っていた。
「アレクセイ様、彼らは?」
「あいつらは、阿片の売人です。ここ界隈で、阿片の取引をしているんです。」
「それと、あなたが話してくださった化け物たちと、どう関係が?」
「それは・・」
アレクセイが次の言葉を継ごうとした時、撃鉄を起こす音が聞こえた。
「動くな。」
恐怖で顔をひきつらせた三人の前には、バロワ伯爵家の執事・リューイが拳銃を構えて立っていた。
『こいつらを縛りあげろ。』
人気のない倉庫へとステファニーを連れて行ったリューイは、仲間の男達にジプシー語でそう命じた。
「あなたは誰?一体何の目的でわたし達にこんなことを?」
「それは、今から死ぬ方には関係のないことです。」
「あら、そうかしら?」
ステファニーはそう言ってリューイに笑うと、ドレスの裾をたくしあげ、ガーターベルトに挟んでいた短剣を彼に向かって投げた。
短剣は真っ直ぐにリューイの喉に突き刺さり、彼は仰向けに床に倒れた。
間髪入れず、ステファニーは自分を縛りあげようとしていた男の首に荒縄を掛け、一気に締めあげた。
男が泡を吹いて失神したのを見たステファニーは、唖然としている仲間を素早く柱に荒縄で縛りあげ、エドガーの手を掴んだ。
「ここから出ましょう。」
「ステファニー様、あなたはとても勇敢なレディだ。」
「アレクセイ様、此処に居るのは彼らだけですか?」
「ええ。それよりも二人とも、わたし達についてきてください。」
数分後、貧民街を抜けた三人は、バロワ伯爵邸に裏口から入った。
「ここに、何か秘密が隠されているのですか?」
「ええ。二手に別れましょう。わたしは、地下室へ。あなた方は、温室の方へ。」
「わかりました。」
「異変があったら、これでわたしを呼んでください。」
アレクセイから呼び子を受け取ったステファニーはそれを首に提げ、エドガーとともに温室へと向かった。
その直後、くぐもった呻き声が聞こえた。
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2013.09.07 14:09:45
コメント(0)
|
コメントを書く
もっと見る