紅蓮の篝火が、パチパチと音を鳴らしながら闇を照らし、華やかな宴の様子を照らし出していた。
「今宵は盛況ですなぁ。」
「そうであろう。あのようなことがあった故、士気を高めねばなるまい。」
舞い踊る白拍子たちを肴に酒を飲みながら、二人の公達たちがそう言い合いながら笑った。
「それよりも、藤原の二の姫様が、まだ病に臥されておいでだとか。」
「ああ・・梅壷にて瘴気を浴びた故、まだ回復していないと・・」
「おや、娘は以外にも人気者だったとは、知らなんだ。」
肩を寄せ合い、ヒソヒソと囁く公達たちの前に、藤原頼道が現れた。
「藤原殿、お元気にしておりましたか!?」
「ああ、わしも娘も息災じゃ。それに、娘の縁談が近々調えられそうで、何よりじゃ。」
「それはそれは、めでたいことで・・」
つい先ほどまで頼道の陰口を叩いていたとは思えぬ顔をして、公達たちは彼に笑顔を向けていた。
「さてと、もうそろそろお暇するとしよう。」
頼道は彼らを無視し、さっと彼らに背を向けて去ろうとした。
「ああそうだ、娘に関する妙な噂をこれ以上広めたら、こちらも黙ってはおらぬ。その事を、肝に銘じてくだされ。」
頼道は彼らの蒼褪めた顔を見ながら、にっこりと微笑んでその場から去っていった。
「あ、雪・・」
「やけに寒いと思いましたら、雪が降っていたのですか。」
一方藤原邸では、聡子が自室で和琴を弾きながら、外から雪が降っていることに気づき、演奏の手を止めて立ち上がった。
「お願い、御簾を上げて。もっと良く見たいの。」
「姫様、お体はまだ本調子ではいらっしゃいませんし・・」
「いいの。長くはかからないから。」
「かしこまりました。少しだけの間ですよ。」
聡子にお願いされ、渋々と女房は彼女の部屋の御簾を上げた。
そこには、庭に降り積もった一面の雪景色が広がっていた。
「まぁ、綺麗・・」
「雪は儚いものですよ、姫様。わたくしはいつ姫様が雪のように儚く消えてしまうのかと、心配でなりません。」
「まぁ、おかしいこと。そのようなこと、ないわ。それに、綺麗なものを綺麗だと言って何が悪いの?」
聡子はそう言うと、弾けるような笑みを浮かべた。
「姫様、後宮の使いが来ております。」
「後宮の者が?急いで支度しないと。」
後宮からやって来た使者は、聡子がやってくると、彼女の美しさに思わず目を見張った。
「わたくしの顔に何か?」
「いえ。実は、弘徽殿(こきでんの)女御(にょうご)様から文を預かりました。」
「弘徽殿女御様から?」
聡子は、使者から弘徽殿女御からの文を受け取り、それを読み始めた。
そこには、明日後宮に上がるようにとだけ書かれてあった。
「どうなさいました、姫様?」
「さっき、弘徽殿女御様から文を頂いたの。明日、後宮に上がるようにって。」
「まぁ、そんな急に・・何かを企んでおいででは?」
「そんなこと、考えるのはお止しなさい。」
何故突然弘徽殿女御が自分を呼び出したのか、聡子は内心不安で堪らなかった。
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Last updated
2013.09.17 16:06:27
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