「牛車の前に人が倒れているだと?一体どういうことだ?」
「あのう・・それが・・」
従者はそう言ってくちごもったのを見た歳三は、舌打ちすると牛車から外へと出た。
「一体何が起きた?」
「と、歳三様・・」
まさか主が外に出てくるとは思ってもみなかったので、供の者達が少し面食らった表情を浮かべていた。
「牛車の前に、誰が倒れてたんだ?」
「それは・・」
「退け。」
歳三はそう言って供の者を退けると、漸く牛車の前に倒れている人間を彼は見た。
それはー金色の短い髪をした男か女かわからぬ者だった。
「おい、どうした?」
「う・・」
歳三がその者の身体を揺さ振ると、その者は低いうめき声を上げてゆっくりと目を開けた。
「一体何があった?」
「わ、わたしは・・」
(千尋!)
目の前の人間は、瞳の色こそ違えども、千尋に似た容姿をしていた。
「お前、名は?」
「葉月、と申します。」
「葉月か・・どうしてこんな所に居る?」
「それは、わかりませぬ。ただ、何者から必死に追われていたので、逃げてきたことしか・・」
そう言うと葉月と名乗った者は、顔をしかめて頭を押さえた。
「おい、どうした?」
「頭が・・痛い。」
最初は葉月が演技をしているのかと思った歳三であったが、その様子が尋常ではないことに気づいた彼は、葉月の身体を抱き上げた。
「歳三様、何をなさるおつもりですか?」
「決まってんだろ、こいつを家に連れて帰る。」
「なりません、そのようなこと!大殿に見つかったら・・」
「俺がいつ本邸に連れて帰ると言った?俺がこいつを連れて帰るのは、別邸だ。」
「ですが・・」
「うるせぇ、俺の決めたことに口を挟むんじゃねぇ。」
「わかりました。何をぐずぐずしておる、早う自分の持ち場に戻らぬか!」
「は、はい!」
別邸に着き、葉月を自分の寝室へと横たえた歳三は、祭文を唱えた後手を葉月の身体にかざした。
すると、葉月が誰かに追われている残像が歳三の脳裏に浮かんできた。
(得体の知れぬ恐怖から逃れる光景・・これだけでは、何の手がかりにもならねぇな。)
歳三は葉月を追う者の正体をもっと探ろうとしたその時、葉月がうめき声を上げるとともに身じろぎした。
「おい、どうした?」
葉月は歳三の問いかけに応じず、少し身じろぎした後、嘔吐した。
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Last updated
2013.09.17 16:14:57
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