ローゼンシュルツ王国皇太子夫妻が来日してから二週間が経とうとしていた。
滞在13日目となる今日、彼らは京都競馬場でレースを観戦する事になっていた。
「何だか不安だなぁ、長距離の移動って。」
「あんまり不安がるな。」
京都へと向かう新幹線の中で知幸がそうこぼすと、日下部がそう言って彼を睨んだ。
「でも・・」
「それよりも山下、今のところ異常はないか?」
「ありません。不審物も、不審者も見当たりませんでした。」
「そうか。じゃぁ暫く席に戻って休んでいろ。長時間立ちっぱなしだと、辛いだろ?」
「ありがとうございます。それじゃぁ、俺は席に戻りますね。」
知幸はそう言って日下部に一礼すると、同僚達が居る車両へと戻って行った。
「お、戻ってきた。」
「ねぇあなた、最近日下部さんと仲良くしているみたいじゃない?」
「そうですか?」
知幸が座席に腰を下ろすと、山田ゆりがそう言ってじっと彼を見た。
「あの、どうしたんですか?」
「あなたみたいな人を、日下部さんが気に入ったとはねぇ。あの人、気難しいし人の好き嫌いが激しいし。」
「そうなんですか?」
「お前知ってる?日下部さんの前の職場。」
「知りませんけど。」
「日下部さん、警視庁の捜査一課に居たんだよ。」
「ええ!?でも、どうしてSPなんかに?」
「さぁな。でもあの嫌味な元キャリアのボンボンと何かあったらしいぜ?」
西田はそう言うと、座席の位置を元に戻した。
やがて知幸達を乗せた新幹線は京都に到着し、セーラ達を乗せたリムジンはSPの護衛の下、京都競馬場へと向かった。
「流石に京都は寒いな。」
「そうですね。盆地だからでしょうか。」
「ローゼンシュルツは、これから寒さが厳しくなるだろうな・・」
数分後、特別観覧席に現れたセーラとリヒャルトの姿がモニターに映し出されると、観客達が一斉に歓声を上げた。
「どうやら俺達は、すっかり人気者のようだな?」
「ええ。」
レースを観戦し終わった二人がリムジンへと乗り込もうとした時、一人の少年が彼らの方へと駆け寄ってきた。
すかさず日下部達SPが彼らを守ろうと少年を遠ざけようとしたが、セーラは手を上げて彼らを制し、少年の前に立って腰を屈めた。
「どうしたの、坊や?」
「写真、撮っていただけませんか?」
「わかった。」
京都市内のホテルで、セーラ達はSP達を労ってパーティーを開いた。
「みんな、二週間わたしを守ってくれてありがとう。今夜は気楽に飲んでくれ!」
「セーラ様に、乾杯!」
賑やかな笑い声を聞きながら、セーラとリヒャルトが談笑していると、突然会場に溪檎が現れた。
彼は一人ではなかった。
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