「こちらです。」
「あの・・馬車は使わないのですか?」
「この街の交通手段は船か徒歩、そのふたつだけです。道幅が狭いので、馬車は禁じられています。」
「そうですか・・」
「お二人とも、道に迷わないようにわたしの後をついてきていただきたい。」
リカルドはそう言うと、ステファニーとエドガーを見て、また歩き始めた。
数十分後、ステファニーとエドガーは、リカルドとともに運河沿いの邸の中へと入った。
「リカルド、連れて来たのか?」
「はい。」
「よろしい。お前はもう下がれ。」
「かしこまりました、旦那様。」
玄関ホールに入ったリカルドは主の言葉に従うと、彼に一礼して邸の奥へと消えた。
「また会えたね、ステファニー。」
「あなたはどなたです?」
ステファニーは、顔を包帯で覆っている男にそう言われて思わず首を傾げた。
「君は、まだ記憶を取り戻していないのだね?」
「記憶、ですか?」
「君は、この地で息絶えた。その最期を看取ったのは、わたしだ。」
包帯の男はそう言うと、そっとステファニーの頬を撫でた。
その瞬間、ステファニーの脳裏にある映像が浮かんだ。
“いや、死なないで!”
“わたしはもう駄目だ・・君だけでも、逃げろ・・”
血の海の中で、エドガーと同じ顔をしている青年が自分の胸に抱かれて息絶えようとしていた。
“君と出会えて、良かった・・”
「いやぁぁ~!」
ステファニーは白目を剥いて悲鳴を上げた後、気絶した。
「ステファニーさん、しっかりしてください!」
「ステファニー、済まない・・」
包帯の男がステファニーへと手を伸ばそうとするのを見たエドガーは、彼の手を邪険に払った。
「ステファニーさんに触るな!」
「旦那様、どうかなさいましたか?」
「リカルド、ステファニーの為に部屋を用意してくれ。突然気絶してしまったんだ。」
「そうですか。ではお医者様をお呼び致します。」
「頼むよ。」
包帯の男は、エドガーに抱きかかえられているステファニーを心配そうに見ると、二階へと上がった。
「我が君、もうミラノにはあの者達は居りません。」
「そうか・・グレゴリー、あいつらの行方はわかっているのか?」
「ええ。」
ラスプーチンはタロットを一枚ベッドの上に広げ、嬉しそうに笑った。
「“死”のカードか・・」
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Last updated
2013.10.21 12:46:59
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