歳三が退院してから一週間後、両親に連れられて明歳と利尋は多摩にある歳三の実家へと向かった。
「あらぁ二人とも、大きくなって!」
「アキは歳に似て男前になったねぇ!」
両親の後に続いて明歳と利尋が土方家の大広間に入った途端、二人は数人の女性達に取り囲まれ、半ば強制的に彼女達の間に座らせられた。
「歳、あんたよく帰って来たわねぇ!」
「ホントよ、育実(いくみ)ちゃんの旦那は、南方で死んぢまったからねぇ・・子ども9人も抱えてこれから先どうするんだか・・」
「あいつ、そんなに生活が苦しいのか?」
「まぁね。四女の春ちゃんが兄妹達の世話や家事を手伝ってくれているんだけど、あの子臨月だからねぇ。いつ産気づいてもおかしくないのよ。」
「あいつが臨月?旦那は何処に居るんだ?」
「それがねぇ、未婚の母なのよ。相手とはわけありでさ。」
「そうか・・」
歳三はそう言うと、溜息を吐いた。
「為次郎お義兄様はどちらに?」
「為次郎さんなら、去年の冬に風邪をこじらせて亡くなったわ。」
「え・・お亡くなりになられたのですか?」
「ええ。あんた達にも伝えたかったんだけど、満州があんな事になっていたから・・あんた達ももしかして、って思ってねぇ・・」
「そうですか。」
為次郎の死を知った千尋は、悲しみで胸が張り裂けそうだった。
「誰か、誰か来てぇ!」
廊下で慌ただしい足音が聞こえたかと思うと、育実が何やら慌てた様子で大広間に入ってきた。
「どうしたの、育実ちゃん?」
「春が・・あの子が産気づいたのよ!布団に寝かせたけど、あの子苦しそうに呻いて・・」
「産婆は呼んだの?」
「呼んだけど、来るまで二時間以上もかかるって・・あたし、どうしたらいいのか・・」
「わたくしが行きます。育実さん、春ちゃんの部屋に案内して。」
「わかりました。」
育実とともに、千尋が春の部屋へと入ると、布団に寝かされた彼女は陣痛に苦しみ、額に脂汗を滲ませながら呻いていた。
「ちょっと起きましょうね、春ちゃん。仰向けのままではなかなか産まれませんからね。ゆっくり呼吸して・・そうそう、上手よ。」
千尋は春の背を擦りながら、彼女に息むように命じた。
「大丈夫かな・・」
「お前ぇ達が生まれた時も、千尋も今の春みてぇに苦しんだんだ。双子だったから、二倍も陣痛に苦しんだ。」
「そうだったんだ・・」
大広間まで春が陣痛で呻く声が聞こえ、利尋は春の身を案じた。
「痛い、痛い~!」
「大丈夫、あと少しだから・・」
「痛い~!」
産道が狭い所為でなかなか赤ん坊が降りてこず、難産の末春は命を落とした。
「赤ん坊は?」
「駄目だったわ。」
千尋はそう言うと、春の顔に白い布を掛けた。
「春はどうなった?」
「駄目でした。彼女の赤ちゃんも・・」
にほんブログ村