1944年、フィリピン。
7月にはグアム・サイパンが米軍によって陥落し、歳三達が居る部隊は、ルソン島を死守する為米軍と激戦を繰り広げていた。
しかし米軍の空爆により食糧や物資などを失い、圧倒的に兵力が勝っている米軍に日本軍は次第に追い詰められていった。
「もう駄目だ・・」
「俺達は、ここで死ぬのか?」
ボルネオ島のジャングルで、兵士達は飢えや渇き、そしてマラリアといった伝染病に苦しんだ。
戦闘で敵の銃弾に撃たれて死ぬ方が、伝染病に感染してジワジワと苦しみながら死ぬよりもマシだった。
「お願いだ、殺してくれ~!」
「青酸カリを、青酸カリをくれ!」
伝染病に罹った兵士達は、下痢と嘔吐に苦しみながら軍医に自決用の青酸カリをねだった。
中には気が触れ、先に死んだ仲間の遺体に湧いている蛆虫を鷲掴みにして食べている者も居た。
まさに、阿鼻叫喚の地獄絵図そのものだった。
そんな中、歳三も運悪くマラリアに罹ってしまった。
頭痛と高熱に苦しみながら、歳三は混濁した意識の中で必死に家族の笑顔を思い出そうとしていた。
ここで死んだら、二度と家族には会えなくなってしまう―そんな思いを抱えながら病に苦しむ歳三を救ってくれたのは、野戦病院で看護婦をしていた15歳の少女、フィオナだった。
フィオナはかいがいしく歳三の看病をしてくれた。
『ありがとうフィオナ、お前のお蔭ですっかり良くなったよ。』
『じゃぁ、お別れね。』
フィオナはそう言うと、悲しそうな顔をして歳三を見た。
『わたし、あなたのことが好き。だから、あなたに抱いて欲しいの。』
『フィオナ、それは出来ねぇ。俺には、妻が居る。』
『それでもいい。あなたとの子どもが欲しいの。お願いトシ、わたしを抱いて。』
そう言って自分を見つめるフィオナを、歳三は拒めなかった。
「じゃぁ、フィオナさんのお腹の子は・・」
「俺の子だ。」
「お母様は、この事は知っているの?」
「一生黙っていようと思った・・フィオナとのことは、もう終わったと思っていたんだ。」
「酷いよお父様、僕達がどんな思いでお父様の帰りを待っていたか・・それなのに、どうしてお母様を裏切るようなことをするの!」
「済まない・・」
「僕にではなくお母様に謝ってよ!」
利尋が歳三を激しく詰っていると、突然フィオナが大きなお腹を押さえて苦しみ始めた。
『フィオナ、どうした?』
歳三と利尋がフィオナの方に駆け寄ると、彼女は英語で“ベイビー”と呟いて呻いた。
ふと歳三が彼女の足元を見ると、そこには水たまりのようなものが出来ていた。
「まさか、子どもが生まれるのか?」
「そうみたい。僕、お湯を沸かしてくる!」
歳三はフィオナを横抱きにすると、リビングのソファに彼女を横たえた。
「フィオナ、大丈夫か?」
『痛い、痛いよトシ!』
フィオナは歳三の手を握ると、痛みの余り叫んだ。
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