「信子さん、お願いがあるのですが・・」
「なぁにトシちゃん、そんなに真剣な顔をして?」
「ミシンを僕に貸していただけないでしょうか?」
「いいわよ。トシちゃん、それどうしたの?」
信子はそう言うと、利尋(としひろ)が抱えている白い花柄の生地を指した。
「これ、奥様の為に作るワンピースの生地なんです。奥様がパーティーに来て行く服がないから、作って欲しいと頼まれてしまって・・」
「そう。だったらわたしがトシちゃんに洋裁を教えてあげるわ。」
「ありがとうございます、信子さん!」
信子から洋裁を習いながら、利尋は寝る間も惜しんでミシンでメリッサのワンピースを縫った。
「出来た・・」
三日後、彼は完成したワンピースを持ってジョーンズ家を訪ねた。
『まぁ、何て綺麗なの!』
『気に入って頂けて、嬉しいです。』
『サイズもぴったりだわ。ありがとうトシ、助かったわ!』
メリッサはそう叫ぶと、利尋に抱きついた。
『素敵なワンピースね、何処で買ったの?』
『ああ、これ?これはトシがわたしの為に作ってくれたのよ。』
『まぁ、そうなの?』
2週間後、利尋が作ったワンピースを着てメリッサが軍主催のパーティーに出席すると、マクレーン将校の妻・ジェーンがそう言ってメリッサのワンピースを指した。
『ええ。トシはとても手先が器用でね、わたしがワンピースを作って欲しいって頼んだから、三日で仕上げてくれたのよ。』
『いい子を雇ったじゃないの、メリッサ。ねぇ、その子をわたしにも紹介してくれない?』
『ええ、いいわよ。』
軍のパーティーから数日後、メリッサに呼ばれて利尋はマクレーン家へとやって来た。
『あなたがトシね?』
『はい、奥様。』
『実はね、あなたにお願いがあるのよ・・娘の発表会の衣装を、あなたが作ってくれないかしら?』
『娘さんの発表会の衣装を、ですか?』
『わたし、裁縫が苦手でね。でも娘は主役を演じるものだからすごく張り切っちゃって・・衣装が出来ないから役を降ろされるなんてあの子が聞いたらどんな顔をするのか・・』
『わかりました。』
『ありがとう、ごめんなさいね、図々しいお願いをしてしまって。』
『今洋裁を勉強中なんです。大人用の服だけではなく、子ども服も作れるようになりたいと思っているので、いい勉強になると思います。奥様、発表会はいつですか?』
『二週間後よ。それまでに、白雪姫の衣装を仕上げてくれないかしら?』
ジェーンの娘・ステファニーの発表会の衣装作りに早速取りかかった利尋は、食事をするのも忘れてスケッチブックに白雪姫の衣装を描き、デザイン画通りに型紙を作った。
「トシちゃん、ここにお夜食を置いておきますからね。」
「ありがとうございます、信子さん。」
「余り無理をしてはいけませんよ。ちゃんと寝ないと、良い物が出来あがりませんからね。」
「わかりました。」
翌朝、西田家の裁縫室に入った利尋は、ミシンの前に置いてあった型紙がなくなっていることに気づいた。
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